チャイムが鳴り昼休みに入った。
今日も時間が分からない中,学校を遅刻しなかった私は道中で買った半額シールの付いた安い菓子パンを教室の端っこに位置する机で食べていた。
甘ったるい菓子パンは今日初めて口にするものには適していなく,口の中が気持ち悪い。
(後で蛇口の水飲も…)
周りのクラスメイト達は机をくっつけたり他クラスに行ったりと,何人かで固まってお昼ご飯を食べている。
そんな中,学校に友達が一人もいない私は机を前に向けたまチビチビと菓子パン食べていた。
「吹雪くーん。一緒にご飯食べよ?」
「私達とも食べようよ」
授業が終わり,騒がしくなった教室にそんな甘ったるい女子の声が聞こえる。
声の方向を見てみるとそこではクラスの一軍にいちする,派手で可愛い女子達が一つの机を囲っていた。
「ああ,今日は誰とも食べる予定ないし,一緒に食べようか」
女子達が囲った机に座っている,一人の男子生徒がそう言うと周りの女子達は甲高い声でキャーキャーと叫んだ。
「……」
雪永吹雪。
制服は着崩さず遅刻欠席,忘れ物などもしない優等生。それに加え言葉遣いも丁寧で気も利く。色白の肌にサラサラとした黒い髪,そしてモデルのようなスタイルを持つ,とにかく顔が良い男子生徒。
彼の話は友達0人の私でも知っていた。それだけ彼の校内での知名度は高く,人気者なのである。
雪永吹雪の紳士さを前に不良好きだと言っていた女子達も全員落ちたらしい。
汗一つかかず,彼の周りにはいつも爽やかな風が吹いているように感じる。入学してから七ヶ月。彼の人気は落ちることなく,むしろ上がってきていた。
いつまでもキーキーと騒ぐ女子達をテレビを観ている感覚で眺めていると一人の女子が目が合った。すると目が合った女子は浮かれていた顔をどこかに捨て眉間にシワを寄せる。
そして隣に立っていた女子に話し始めた。
「雪女と目合っちゃったんだけど」
「うーわ,可哀想」
「二人とも聞こえるでしょ」
「わざとだよ」
「雪女じゃなくて吹雪君にだよ。悪口言う奴って思われたくないでしょ」
「確かに」
好き放題話す彼女等と目が合わないよう,窓の外を見つめる。そこに映るのは白い髪を持った自分の姿。根元から白くなっているこの髪は正真正銘地毛だった。
ほとんどの日本人が黒髪の中,この白い髪は悪い意味で良く目立つ。頭髪について自由な高校を選び入学したが,染めている生徒達のほとんどは金髪やメッシュで少し入れるなどといった具合で,私のように白い髪の生徒は誰一人として居なかった。
人間とは普通と違うものを受け入れられないらしい。特に学校と言った集団生活をする場所においてそれは顕著に現れる。
それのせいか,私は一軍の生徒達を中心に時折悪口を言われている。この白い髪のせいで友達がいないと言っても過言じゃない。
(ま,そんな馬鹿な奴らとは友達なんかになりたくないけど)
髪を黒く染めればこんな風にはならなかったであろう。だけど私はこの髪を染めることは,どうしても出来なかった。
「吹雪君,机くっつけてもいい?」
「構わないよ」
女子達は私の事はすぐに頭から消えたようで,今では雪永吹雪とお昼ご飯を食べることで頭がいっぱいになっている。
彼はぶりっ子女子達の甘ったるい声と行動に嫌な顔せず笑顔で接している。それは店員がやる営業スマイルのようにも見えた。
「吹雪。お前また女子達に囲まれてんのか」
「俺等も入れろよな!」
「えー。私達は吹雪君と一緒に食べようって話してるんだけど」
「別にいいよ。皆で食べようか」
クラスでやんちゃな男子が雪永吹雪達に絡みに行き,どうやら今日は大勢で食べることになったようだ。
ちなみに雪永吹雪は男子生徒達からも人気があった。誰に対しても分け隔てなく接する態度は,男子達からの好感も集めたらしい。
いつの間にか教室に残っていたほとんどの生徒が,一緒に昼食をとることになっている。
そんな中教室の端で菓子パンを食べる自分はさぞかし浮いているだろう。
(私は全員と仲良くとか好きじゃないから,別にいいか)
男女関係なくして,ここまでの人気を勝ち取る雪永吹雪はどこか人間離れしているようにも見えた。
笑顔で誰とも接する優等生。まるで映画の中の主人公だ。
ならば目立つ事を避けたい貧乏学生な私は極力関わらない様にしよう。
私はそう,七ヶ月前に決めたのであった。
女子達の甘ったるい声に耳が慣れてくると,ゆっくり食べていた菓子パンも食べ終わった。
そうすると私は机の中から一冊の冊子を取り出す。これは毎朝学校の前に置いてあるバイトに関する冊子だ。入学してから知ったことだが,どうやらこの学校は社会に出るまでに生徒達に仕事の経験を積極的にさせようとしているらしく,下駄箱の近くにバイト冊子が置いてある。
そこには様々なバイトの求人が記載されており,長く続けられるようなバイトもあれば日雇いバイトのようなものまでなかなかに豊富な品揃えだ。定期的にその中身は変わっていき多くの生徒が活用している。
一人暮らしで頼れる親戚もいない私にとってこれはとても有難いものだった。一風吹けば壊れてしまいそうなボロアパートに住んでいる身としてはとにかくお金がいる。
お金があれば今日のように甘ったるい菓子パンだけを食べずに済むし,新しい布団なども買える。
生活を豊かにするためにはとにかく金が必要だった。
長期間にわたるバイトはあまり長く続かない。それは私のとある事情のせいでもあるが,ただ単純に長い間同じ人と関わり続けるのが苦手だからというのもあるだろう。
そのため最近は日雇いバイトをして日々の生活を保ってきていた。しかしこれにもそろそろ限界が近づいてきている。
(…いつもよりも高額なバイトにしないと,そろそろ昼休みに袋に入った冷凍もやしを食べる事になる)
日給の欄だけを素早く見ていき,高額なバイトを探す。
学校側が作っていることもあり闇バイトのようなものがないため,そこの点を心配する必要は無かった。
1ページ,更に1ページを進んでいく。しかしなかなか良いものが見つからない。
諦めて前回と同じものにしようかと思った時だった。
「日給……五万円…」
最後のページの一番下に小さく書かれた文字を私は見逃さなかった。他の場所が全て印刷なのに対しそこだけは達筆な文字が手書きで書かれている。どうやら生徒の誰かがこっそり書いたらしい。
私は仕事内容を読んでいく。
(……これ…半分闇バイトと言ってもいいんじゃない?)
先生が書いたわけではないその仕事はグレーと言ってもいいような内容だった。しかし日給五万円。これだけのお金が一日で稼げればもやし生活をしなくて済むことだろう。
どうやら仕事がし終わった後に,2−Dの女子生徒に仕事の事をまとめた紙を渡せば給料が貰えるらしい。
これはバイトというよりかは裏取引のようなもののようだった。しかも私が七ヶ月前に心に決めた事に反する内容でもある。
しかし今の私には,そんな昔に決めた事よりも金が大切だった。
私はマーカーペンを取り出し手書きで書かれたその文字に線を引いた。
『1−B雪永吹雪君の放課後の行動を調べてください!』
今日も時間が分からない中,学校を遅刻しなかった私は道中で買った半額シールの付いた安い菓子パンを教室の端っこに位置する机で食べていた。
甘ったるい菓子パンは今日初めて口にするものには適していなく,口の中が気持ち悪い。
(後で蛇口の水飲も…)
周りのクラスメイト達は机をくっつけたり他クラスに行ったりと,何人かで固まってお昼ご飯を食べている。
そんな中,学校に友達が一人もいない私は机を前に向けたまチビチビと菓子パン食べていた。
「吹雪くーん。一緒にご飯食べよ?」
「私達とも食べようよ」
授業が終わり,騒がしくなった教室にそんな甘ったるい女子の声が聞こえる。
声の方向を見てみるとそこではクラスの一軍にいちする,派手で可愛い女子達が一つの机を囲っていた。
「ああ,今日は誰とも食べる予定ないし,一緒に食べようか」
女子達が囲った机に座っている,一人の男子生徒がそう言うと周りの女子達は甲高い声でキャーキャーと叫んだ。
「……」
雪永吹雪。
制服は着崩さず遅刻欠席,忘れ物などもしない優等生。それに加え言葉遣いも丁寧で気も利く。色白の肌にサラサラとした黒い髪,そしてモデルのようなスタイルを持つ,とにかく顔が良い男子生徒。
彼の話は友達0人の私でも知っていた。それだけ彼の校内での知名度は高く,人気者なのである。
雪永吹雪の紳士さを前に不良好きだと言っていた女子達も全員落ちたらしい。
汗一つかかず,彼の周りにはいつも爽やかな風が吹いているように感じる。入学してから七ヶ月。彼の人気は落ちることなく,むしろ上がってきていた。
いつまでもキーキーと騒ぐ女子達をテレビを観ている感覚で眺めていると一人の女子が目が合った。すると目が合った女子は浮かれていた顔をどこかに捨て眉間にシワを寄せる。
そして隣に立っていた女子に話し始めた。
「雪女と目合っちゃったんだけど」
「うーわ,可哀想」
「二人とも聞こえるでしょ」
「わざとだよ」
「雪女じゃなくて吹雪君にだよ。悪口言う奴って思われたくないでしょ」
「確かに」
好き放題話す彼女等と目が合わないよう,窓の外を見つめる。そこに映るのは白い髪を持った自分の姿。根元から白くなっているこの髪は正真正銘地毛だった。
ほとんどの日本人が黒髪の中,この白い髪は悪い意味で良く目立つ。頭髪について自由な高校を選び入学したが,染めている生徒達のほとんどは金髪やメッシュで少し入れるなどといった具合で,私のように白い髪の生徒は誰一人として居なかった。
人間とは普通と違うものを受け入れられないらしい。特に学校と言った集団生活をする場所においてそれは顕著に現れる。
それのせいか,私は一軍の生徒達を中心に時折悪口を言われている。この白い髪のせいで友達がいないと言っても過言じゃない。
(ま,そんな馬鹿な奴らとは友達なんかになりたくないけど)
髪を黒く染めればこんな風にはならなかったであろう。だけど私はこの髪を染めることは,どうしても出来なかった。
「吹雪君,机くっつけてもいい?」
「構わないよ」
女子達は私の事はすぐに頭から消えたようで,今では雪永吹雪とお昼ご飯を食べることで頭がいっぱいになっている。
彼はぶりっ子女子達の甘ったるい声と行動に嫌な顔せず笑顔で接している。それは店員がやる営業スマイルのようにも見えた。
「吹雪。お前また女子達に囲まれてんのか」
「俺等も入れろよな!」
「えー。私達は吹雪君と一緒に食べようって話してるんだけど」
「別にいいよ。皆で食べようか」
クラスでやんちゃな男子が雪永吹雪達に絡みに行き,どうやら今日は大勢で食べることになったようだ。
ちなみに雪永吹雪は男子生徒達からも人気があった。誰に対しても分け隔てなく接する態度は,男子達からの好感も集めたらしい。
いつの間にか教室に残っていたほとんどの生徒が,一緒に昼食をとることになっている。
そんな中教室の端で菓子パンを食べる自分はさぞかし浮いているだろう。
(私は全員と仲良くとか好きじゃないから,別にいいか)
男女関係なくして,ここまでの人気を勝ち取る雪永吹雪はどこか人間離れしているようにも見えた。
笑顔で誰とも接する優等生。まるで映画の中の主人公だ。
ならば目立つ事を避けたい貧乏学生な私は極力関わらない様にしよう。
私はそう,七ヶ月前に決めたのであった。
女子達の甘ったるい声に耳が慣れてくると,ゆっくり食べていた菓子パンも食べ終わった。
そうすると私は机の中から一冊の冊子を取り出す。これは毎朝学校の前に置いてあるバイトに関する冊子だ。入学してから知ったことだが,どうやらこの学校は社会に出るまでに生徒達に仕事の経験を積極的にさせようとしているらしく,下駄箱の近くにバイト冊子が置いてある。
そこには様々なバイトの求人が記載されており,長く続けられるようなバイトもあれば日雇いバイトのようなものまでなかなかに豊富な品揃えだ。定期的にその中身は変わっていき多くの生徒が活用している。
一人暮らしで頼れる親戚もいない私にとってこれはとても有難いものだった。一風吹けば壊れてしまいそうなボロアパートに住んでいる身としてはとにかくお金がいる。
お金があれば今日のように甘ったるい菓子パンだけを食べずに済むし,新しい布団なども買える。
生活を豊かにするためにはとにかく金が必要だった。
長期間にわたるバイトはあまり長く続かない。それは私のとある事情のせいでもあるが,ただ単純に長い間同じ人と関わり続けるのが苦手だからというのもあるだろう。
そのため最近は日雇いバイトをして日々の生活を保ってきていた。しかしこれにもそろそろ限界が近づいてきている。
(…いつもよりも高額なバイトにしないと,そろそろ昼休みに袋に入った冷凍もやしを食べる事になる)
日給の欄だけを素早く見ていき,高額なバイトを探す。
学校側が作っていることもあり闇バイトのようなものがないため,そこの点を心配する必要は無かった。
1ページ,更に1ページを進んでいく。しかしなかなか良いものが見つからない。
諦めて前回と同じものにしようかと思った時だった。
「日給……五万円…」
最後のページの一番下に小さく書かれた文字を私は見逃さなかった。他の場所が全て印刷なのに対しそこだけは達筆な文字が手書きで書かれている。どうやら生徒の誰かがこっそり書いたらしい。
私は仕事内容を読んでいく。
(……これ…半分闇バイトと言ってもいいんじゃない?)
先生が書いたわけではないその仕事はグレーと言ってもいいような内容だった。しかし日給五万円。これだけのお金が一日で稼げればもやし生活をしなくて済むことだろう。
どうやら仕事がし終わった後に,2−Dの女子生徒に仕事の事をまとめた紙を渡せば給料が貰えるらしい。
これはバイトというよりかは裏取引のようなもののようだった。しかも私が七ヶ月前に心に決めた事に反する内容でもある。
しかし今の私には,そんな昔に決めた事よりも金が大切だった。
私はマーカーペンを取り出し手書きで書かれたその文字に線を引いた。
『1−B雪永吹雪君の放課後の行動を調べてください!』



