雪降るカフェの看板半妖店員

鳥の鳴き声で目が覚めた。
重い体を起き上がらせる。窓から見える外は明るかった。

「朝か……」

十数年も使っている敷布団は薄く,体のあちこちが痛かった。床に散らばる物を避けながら洗面所に向かう。途中ヘアピンを踏んでしまい足の裏が少し痛い。
洗面所には歯ブラシと歯磨き粉,そして自分の名前が英語で刻まれたブラシしか無い。
これが華の高校生の使う洗面台かと思うと,毎朝少し虚しくなる事もあるがあまり気にしないようにしている。
適当に歯を磨き終わると,大切に保管しているブラシを手に取る。目の前の鏡に写るのは白い髪を持つ自分の姿。自分のアイデンティティと言ってもいい,その白い髪をいつものように私は丁寧にとかし始める。

「てか今って何時?」

我が家には時計がない。それどころか時間を確認するためのものが何一つない。
記憶もないような昔に買ったであろう小さな時計が2年前に止まってから我が家からは時間を見ると言う行為が消え去った。
しかしそれよりも前から,この家の時間は止まっているため時計があろうがなかろうがあまり変わらないのかもしれない。
腰辺りまで伸びた髪をとかし終わると,床に無造作に落ちている制服を着る。外から小学生らしき声が聞こえ始めた。少し急いだほうがいいかもしれない。着替え終わった私は他のものと同様,床に落ちている鞄を手に取り,靴を履く。

「行ってきまーす」

誰も居ない家で私の声はあまり響かなかった。
外に出ると,アパートの目の前にある中古屋さんの大きな時計が目にはいる。まだまだ学校には間に合う時間だ。
時間を知る事が出来ない私はこの時計には良くお世話になっている。

「あらー。霰ちゃんおはよう」

「おはようございます」

中古屋さんから出てきた店主のおばあちゃんに挨拶をする。
ここまでが私の――白山霰の毎朝のルーティンだ。
朝ご飯は?スマホは?もっといいもん揃えれば?
そんな贅沢は出来るわけがない。私は後ろを振り返る。そこには蜘蛛の巣がはり,鉄は錆び,かろうじて鍵がかけられるボロアパートの一室があった。
私は自分以外に誰もいないアパートで,ひっそりと息を潜めて今日も過ごす。