「化物!こっちに来なさい!!」


あぁ、また一日が始まってしまった。

私の朝は酷い金切り声と、大きな音で始まる。


「はい、只今参ります。」


バシッ!
「遅いんだよ!この醜女が。」


叩かれた、しかし痛みはない。

なぜだかはわからないが私の体は、何度殴られても一日、遅くても三日で完治してしまう。

そのため、”化物”とか”化物の子”などと呼ばれることもある。

また、姉と比べて顔が醜いので”醜女”などとも呼ばれる。

だから私は、感情を表に出さず、謝ることしか許されない。

それがこの家で醜くも生きていくための唯一の方法だから、、、


「申し訳ありません。」


「ふんっ、今日はここの洗濯と雑草抜きをしなさい。それが終わったら食事の準備と屋敷の掃除よ。手を抜くことは許さないからね!」


そう言って、血縁関係の上では母と呼ばれる存在が去っていった。


「よしっ。」


そう気合を入れて今日の仕事へと取り掛かった。







疲れた。

私が今日一日すごして、湧いてくる感情と呼ばれるものはただそれだけだった。

嬉しい、悲しい、辛い、幸せ、そんな感情はとうの昔に何処かにやってしまった。

そうしなければ、姉との格差に身をなげうってしまおうかとそんな事を考えてしまうから。


「いつまで、続くのかしら、、、」


そんな言葉が、私の部屋、物置小屋の中でぽつんと吐き出された。

しかし、自分で言っといてなんだが、心の何処かで正解は見つかっているのだろう。


『私はきっと、一生このまま家の言いなりとなり生きていくのでしょうね。』







それは、よく晴れた快晴の日だった。

今思うと、なんだか家族の様子も、屋敷の様子も何やら少しおかしかった。

いつもはこんなにバタバタと忙しなく動いていないのに、とても浮足立っているように感じた。

しかし、私には何一つ関係ないだろうと自分の仕事をまっとうするだけだった。

そして、この少しばかりおかしい雰囲気の正体がわかったのは日が落ちようとしている頃の時間だった。

私は、この屋敷の使用人に両親から話があると呼び出された。


「失礼いたします、花林参上いたしました。入室の許可をもらえますでしょうか。」


そうして、私は合図が出るまで礼の態度を崩さなかった。

そうしなければ、打たれて、蹴られて、食事を抜かれてしまうから。

すぐに治るとはいえ、食事を抜かれてしまったらどうしようもないからだ。

栄養が悪いと、治るものも治らなくなってしまう。

幾分か立った頃、入室の許可が降りた。


「失礼いたします。」


しかし、私は目線を下げて低い姿勢のまま座る。

目線が会うということは、不敬に当たってしまうことがあるからだ。


花林(ホワリン)、顔をあげなさい。」


「は、はい。」


このとき私は、とても動揺した。

なぜなら、私の名前が呼ばれるとき、それは何かとても嫌なことを命令される前兆だったからだ。


「今日はあなたに良い話を持ってきたの。」


母から、はちみつを煮詰めたような甘ったるい声で私は衝撃の事実を伝えられた。


「あなたに結婚の話を持ってきたわ。」


この人はなにを言っているのだろう。

私が、結婚?

姉よりも先に?

なんで、という疑問で頭の中がいっぱいになった。


「お相手は、龍帝。今生の帝よ。」


相手は、帝?

、、、、、あぁ、だからか。

私はお相手が帝と聞いて、妙に納得してしまった。

それはそうだろう、可愛い愛娘を龍帝なんぞに嫁がせたくはないだろう。

なぜなら、龍帝と呼ばれるお方は、後宮に数多の美女を嫁がせても誰一人手を出さず見向きもしないということから、”男色”という噂が立っておられるのだから、、、、

私はその話を聞かされてから、息をつく暇もなく支度をさせられた。

そうして私は、17年間過ごした生家を去ったのだ。







今現在、私は皇城からの迎えで馬車に乗って後宮へと向かっている。

従者の方には、私が誰一人としてお供や侍女をつけなかったから訝しんでいたけど、私なんかについていく人なんて誰ひとりいないのだから仕方がない。

しかし、見た目だけでいえば衣はお姉様のお下がりだけれど、私が生きていた中で一番のきれいさだし、一応は皇帝様に嫁ぐのだということで仕事も課されなかった。


キキ—!


どうやら、そんな事を考えているうちに後宮についたようだ。


「花林様、ご到着いたしました。」


「はい。」


そうして返事をすると、御者の方が馬車の扉を開いてくれた。

私は外に出たとき思わず、目をすぼめてしまった。

なぜなら、日が強く暗い馬車の中で慣れた目には刺激が強かったからだ。

そうして、目が太陽の光に慣れてきた頃私は周りの景色を確認してみた。

どうせ高い塀に囲われ逃げることが不可能であり、侵入も不可な場所だろうと高をくくっていた。

しかし、広がってきた光景は私が想像していたものと全く違った。

そこには、長く続く階段とその上に世の中の優美を一箇所に集めたであろう城があった。

私は困惑した。

なぜなら私は後宮に入れられると思っていたのに、連れてこられたのは皇帝様が住まわす殿だったからだ。

私は困惑して、御者のかたに聞いてしまった。


「あの、つかぬことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」


しかし、御者のかたは私が聞くと目を少しばかり開いて、驚いたように顔になった。

だが、それも一瞬のことで私の見間違いかとその時は気にもとめていなかった。


「、、、はい。」


「なぜ私は後宮ではなく、こちらに連れてこられたのでしょうか?」


「はっ、お答えします。後宮にお入りになる姫君たちはまず、皇帝様のお目通りが必要でございます。これをいたしませんと、正式に後宮に入り、皇帝様に嫁いだということにはなりません。ですので、こちらにお連れしました。」


「わかりました。丁寧にお答えいただきありがとうございます。」


なるほど、だからか。

私は腑に落ちた。

しかし、理由がわかったとしてもまた別の心配が私を襲いかかった。

それは、皇帝様の前で粗相をしないかということだ。

だが、そんな事を考えているうちに少しばかり時間がたっていたようだ。

なので、御者の方から心配のお言葉があった。


「花林様?お加減が悪いでしょうか?」


「だ、大丈夫です。ご心配をかけてしまい申し訳ありません。私の体調は平気ですので参りましょう。」


こうなってしまってはどうしようもない。

皇帝様のお手や、御者のかたのお時間をこれ以上取るわけにわ行かない。

覚悟を決めて行こう。

私はそう決心して一歩踏み出した。







「新しく妃とならせられます、花林様のおなりです。」


その掛け声とともに、重厚できらびやかな扉は開かれた。

そうして、奥には階段がありその上に、この国の皇帝であらせられる龍帝がお座りになられていた。

私は緊張しながらも皇帝様の前まで行き、跪いた。


「、、、、顔をあげよ。」


「はい。」


私は皇帝様の良がでてから顔を半分上げ、後宮に入るために必要な儀式ばった言葉を言った。


「私、花林は皇帝様の妻となり、この国の繁栄のために、己の身を粉にしてつくし、皇帝様への恒久の忠誠を誓います。」


「その念しかと受け取った。この国の繁栄のために尽くすが良い。」


「はっ、感謝の言葉もありません。」


皇帝様はその言葉を聞くと、席をお立ちになり椅子の奥の簾へとお帰りになった。

そうして、私は後宮に入内した。







月日というものははやいもので、後宮に入ってだいたい1ヶ月ほどたった。

後宮に入って変わったことといえば家族からの仕事が課せられなくなったことや”醜女”、”化物”などと呼ばれなくなったことくらいだ。

そのため、一部を除いてとても快適に過ごしていると思う。

強いて言うなら、私より身分の高い妃たちによる、少しばかりのいやがらせくらいだろう。

なぜなら、私には侍女などのお世話係が誰ひとりいなくさらには、衣服も他に比べれば貧相だからだ。

しかし、そのことを除いても後宮という場所は私にとって、生家よりも生きやすい場所だった。

そして、なによりも生家と違うことといえば、、、


「花林!来たわよ〜。」


「は〜い。今行きますね。」


そう、なんとお友達とよんでもいい人ができたのだ。

彼女の名前は、蘭水(ランシュイ)。天真爛漫とした性格で、私に唯一声をかけ仲良くしてくれた一人だ。

なんで、私に声をかけたの聞いたら、優しそうだからと答えてきたとても優しい子だ。


「どうしましたか?蘭水。」


「それがね、それがね!聞いてよ!!なん「お嬢様、お行儀が悪いですよ。」はーい。」


途中で話を区切ったのは蘭水の侍女の(すい)だ。

何かと周りが見えなくなる蘭水の教育係でもある。


「大丈夫ですよ、翠さん。私は気にしていませんから。」


「わかりました。ですが、お嬢様はもっと、花林様を見習ってください。」


「わかったよ〜だ。」


しかし、幾分かもしないうちに蘭水は翠が言ったことを忘れ、私に話しかけてきた。


「それでね、話っていうのはね!なんと、今夜皇帝様のおわたりがあるらしいの!!」


「!まぁ、それは、、、」


「すごいよね!あの皇帝様が初めておわたりになるんだから。」


「えぇ。」


私はその話を聞いて驚いた。

だが、その驚きも長くは続かなかった。

なぜなら、私には一生縁がないことだからだ。

私なんかにおわたりが来るはずもない。

だから、私は興奮している蘭水に別の話をして話をそらした。


「蘭水、お菓子ができましたよ。お食べになりますか?」


「やった〜!食べる!!そういえばね——」









夜が来て、皆が寝静まったであろう時間。

その方は来た。


コンコンコン




誰だろう。

こんなに夜遅い時間に、、、

見張りの方の巡回かしら。

私はそんなことを思いなが、扉を開けた。

そうして、扉を叩いた人物を見てみると私は絶句した。

なぜなら、そこにはこの国の皇帝がいらっしゃったからだ。

皇帝様は私が固まっているのを見ると、心配なされたのか声をおかけになってきた。


「おい、大丈夫か。」


はっ!
「は、はい。大丈夫でございます。」


「そうか。」


皇帝様はそれだけいうと私の部屋に入った。

私は一瞬なにがおこっているのかわからなかった。

しかし、早急に頭をフル回転させて、なんとか皇帝様の後を追った。






皇帝様は私の部屋に入ると、私の寝台にお座りになった。

私は頭が真っ白になった。

しかし、昼、蘭水から言われたある言葉を思い出していた。


『今夜皇帝様のおわたりがあるらしいの!!』


、、、、つまり、私がそのお相手ということ、なの?

なぜ私が、、、という感情が波のように押し寄せてくる。


「花林、こちらに来い。」


「は、はい。」


私がそんな事を考えているうちに、皇帝様はしびれを切らしたのか私を呼んだ。

私はさびついた人形のように歩きながら皇帝様のもとへと歩いていった。

そうして、私が皇帝様のもとへとたどり着くと、ある質問をされた。


「そなたは、あの噂を知っているのか。」


あの噂、、、

というと、皇帝様が男色を好むという噂しか考えられない。

しかし、そのようなことを言ってしまったら不敬罪となってしまう。


「、、、、、、、」


皇帝様は、私の沈黙を肯定と捉えたのか、そうか、とおっしゃってきた。


「その噂は、全くの嘘だ。」


私はその答えに思わず驚愕し、答えてしまった。


「そうなの、ですか。」


「あぁ。私は断じて男色ではない。私はただこの顔が怖いだろうと、怖がらせてしまうであろうと思い、ふれあいを避けていたのだ。しかし、私の部下に反論されてな。だから、触れ合おうと思ったのだ。」


私はその話を聞いて、少し可笑しくなってしまった。

なぜなら、ここまで優しいお方が自身とはあらぬ疑いをかけられていたからだ。

、、、、それにしても、噂とは違い優しく、整った顔をなさっていらっしゃる。

私は、その話を聞いてふとそう思った。

しかし、私はある疑問が生まれた。

それは、なぜ相手が私なのかということだ。

お相手となる方は、上級妃などの身分の高い妃を選ぶことが通例なのに、なぜ私のような下級妃しかも、後ろ盾も少ない私を選んだのだろう。

私が疑問で頭がいっぱいになっていると、皇帝様は私の考えを見透かしたようにおっしゃってきた。


「相手がお前なのは、私がお前のことを好いたからだ。」


「、、、、、、、へっ?」


「突然こんなことを言われても困るだろうが、そなたは他の妃と違い、私の前にでても威張ることなく私に従順であった。さらには、そなたのその力にとても興味がある。」


「私の力、ですか?」


「あぁ、それは治癒の力だ。」


私に、治癒の力がある?

そんなことはない。

確かに、稀にそのような特異能力を持ってうまれてくる子はいる。

だが、その確率は砂漠で水を見つけるよりも難しい。

それなのに、私が、能力者?

私が困惑していると、皇帝様は私にとあるお願いというなの命令ををしてきた。


「そなたの中に眠る治癒の力を開花させるために私と夜をともにしてはくれないか?」


あぁ、こうなってしまっては断ることなどできない。

私は覚悟を決め、皇帝様と夜をともにすることを決めた。


「はい、喜んで。」







あの日から2ヶ月後、私はあの日が夢なのではないかと思うことが日に日に増えた。

なぜなら、あれから皇帝様のおわたりは一度もなくただただ平々凡々な日々が今日も過ぎようとしていたからだ。

しかし、今日は私の身体に異変があった。

それは、、、、

月のものが一向に来ないということだ。

生家にいる時は栄養面での偏りなどで来ない月もあったが、後宮に来てからというもの食事は自らで作っていたし、そのようなことになる要因は一つもなかった。

そうして考えていると、突然部屋の扉が鳴った。


コンコンコン
「失礼いたします。花林妃、健診に参りました。」


健診?

そんなものを頼んだ記憶はないのだけれど、、、

私は困惑したが、とりあえず来た医官を中へを招くことにした。


「はい、お入りください。」


「失礼いたします。」


医官はここまで来ると、まず最初に私の体調を聞いてきた。


「花林妃、体調はいかがですかな?何か、気持ち悪いなどの症状はございませんか。」


「、、、一月ほど前から、気持ち悪いと思うことが増えました。」


「ふむ、では次に熱を測らせてください。少し失礼いたします。」


そう言うと医官は私の熱や脈を測り始めた。

そうしていると、医官は次第に喜色を浮かべ始めた。

そして、医官は私に衝撃なことを伝えてきた。


「花林妃、おめでとうございます。皇帝様のお子をご懐妊されました。」







懐妊の知らせがあってからは怒涛の毎日だった。

私は、下級妃用の宮から皇帝様に一番近い部屋までと引っ越しをし、蘭水と会うこともなくなってしまった。

そして、あの2ヶ月が嘘だったように、皇帝様は私の部屋に毎日と言っていいほど渡ってきた。

なぜ、2ヶ月の間は来なかったのかと思わず疑問に思って聞いてみると、なんと初めて閨をともにした妃とは2ヶ月間会うことを禁止されているらしい。

なんでも、その妃だけに傾倒するのを防ぐためだとか、、、

そして、今日も今日とて私は皇帝様のおわたりを待っていた。

皇帝様とは、この間でとても打ち解けた仲となった。

今では皇帝様のことを龍月(ろんゆえ)様とおよばせていただけるほどにまでなった。

そんな事を考えていると、どうやら龍月様がいらっしゃったようだ。


「花林、入るぞ。」


「はい。」


そう言うと、龍月様が部屋に入ってきた。

龍月様は私の顔を見るとぱっと、花を咲かせたようにほころんだ。


「花林体調に大事ないか?」


「はい、お陰様で体調は安定しておりますし、子は順調に育っています。」


「そうか。」


龍月様様は私が言った言葉だけで喜んでくださる。

私はこのお方のおそばにおりたい、そんな思いが日に日に強まっていった。

そして、楽しく談笑していると急に龍月様が真剣な顔をしてきた。


「そなたに話さねばならないことがある。」


私は改めて姿勢を正して返事をした。


「はい。」


「実はな、近頃後宮で不穏な雰囲気があるのだ——。」






「———ということなのだ。」


どうやら話をまとめると、私が龍月様お子を身ごもったことが気に食わないものがいるらしく私を暗殺しようとしているらしい。


「なるほど、、、、」


私が不安になっていると、龍月様は私を安心させるように言った。


「大丈夫だ。花林のことは私が守る。もしも、そなたに害を及ぼしても私が助ける。」


「はい。」


私は、その言葉に心があたたかくなるようだった。

しかし、このときの私は気づかなたったのだ。

私のすぐ目の前まで、危険が迫っていることに、、、







それは私が後宮入りを命じられたときとはかわり、とても重々しい雲が空を覆っていた日のことだった。

私が懐妊してから一度も会わなかった、蘭水が私の元を訪れた。

私は蘭水のことを少しも疑うことなく、私の宮に招き入れた。

しかし今思うとどこかおかしかった。

侍女の翠さんが一緒ではなかったし、なによりいつもの溌剌とした明るさはなく、どこか影をまとっていた。

私は、そのことに気づかなかった。

なぜなら、久しぶりにあった友人との歓談を楽しみにしていたからだ。


「蘭水、どうぞお座りになってください。美味しいお茶があるんです。ぜひ、蘭水にも飲んでいただきたくて、、、」


「ありがと、花林。じゃあ、これを茶菓子として食べよう?実家から月餅が送られてきたの。」


「そうなんですか。蘭水のお菓子はとても美味しいので楽しみです。」


そうして、私は蘭水のお茶菓子をさらにとりわけ久しぶりの歓談に心踊らせた。

しかし、異変は突然起こった。

その異変は、私が蘭水が持ってきた月餅を食べたときのことだった。

私は思わず月餅から手を離し、口をおさえた。

そして、段々と体が痺れ視界が薄れてきた。

薄れゆく意識の中で、バタバタとした声と、龍月様様の声、そして蘭水の憎む声が聞こえた。


「あんたがいけないんだからね、、、、」









あぁ、寒いな、、、、

視界が真っ暗だ。

私は死んだのかな。

そんなことをどこにいるかもわからない漆黒の暗闇の中で思っていると、ふとあたりが明るくなった。

意識や視界がひらけてくると、ここは広大な水面と一つの大樹が添えられている場所場と確認することができた。


『ここは、どこ?』


私はとりあえず歩いた。

そうして歩いていると、何やら赤子が大樹の下におくるみにくるまれて置かれていた。


『誰の子だろう、、、』


でも、どことなく龍月様に似ている気がする。

そうして不思議に思っていると、突然赤子が宙に浮き、光った。

私はそのまばゆいほどの光に目を閉じた。

そして、何やらあたたかい風に包まれながらどこかへと飛んでいった。





「、、ん!ほ、、、りん!花林!!」


「んっ。」


目を開けてみると、龍月様が泣いていた。

私は心配になって、龍月様に手を伸ばした。


「龍月様、、、ただいま、もどりました。」


「あぁ、ああ!よかった、ほんとうに、よかった、、、」


龍月様は私のことを見るなり、私に抱きついた。

私はそのあたたかく優しい包容に顔を綻ばせた。

龍月様が落ち着くと、私は事の顛末を聞いた。


「龍月様、蘭水はどうなりましたか。」


龍月様は少しばかり言い淀んだが、根負けしたのか話し始めた。


「首謀者の名前は蘭水。妃の位は、下から二番目だ。そして、なぜやったのかと問いただしたところ、花林の殺害が目的だった。理由としては、自分よりも格下だと思っていた花林が私の子を身ごもり、出産することに嘆いたから。とのことだ。現在、詳しい話を聞いている。しかし、殺人未遂だとしても私のものに手を出したのは事実。そのため、良くて永久国外追放または永久投獄、悪くて極刑だな。」


「、、、そう、ですか。わかりました。お答えいただきありがとうございます。」


私は考えたくなかった。

だが、考えることをやめてはいけないと心の何処かで思っていた。

だから、必死にこのことに向き合うことにした。

しかし、疑問が一つ解決したことで新たな疑問が浮かび上がってきた。

それは、私が何故死んでいないのかということだ。

おそらく蘭水が月餅に含ませた毒は一口食べるだけで致死量に達する猛毒だろう。

皇帝のお子を殺すということは、とてつもない大罪だからだ。

なのになぜ私は生き残ったのだろう。

私が疑問に思っていると、そんな私の考えを龍月様は感じ取ったのであろう。

そのため私がなぜ死んでいないかという説明をなさってくれた。


「花林、そなたには治癒の力があると以前言ったであろう。その力が苦肉にも今回のことで開花し、死なずにすんだのだ。もしも開花していなければ死んでいたであろう。」


「なるほど、、、ご説明いただきありがとうございます。」


つまり私は、忌み嫌われる原因となった力に救われたということか。

なんという、奇跡であり皮肉なのだろう。

この力のことを今はまだ良くわからないし、好きにもなれない、だがこの力のお陰で救われたことは事実。

だから、向き合っていこう。

私の力に、私という人に。

総決意し、私は未来のことへ思いをはせた。







「おぎゃー!おぎゃー!!」


今日、晴天の日に帝の子は生まれた。

かつて、忌み嫌われた少女は皇帝の寵愛をうけ、その身に子を宿した。

そして、少女は妃となり、寵妃となり、皇后となった。

そうして、皇帝とともに国を豊かにし幸せに暮らした。

これは、虐げられた娘が皇帝の寵妃となり幸せになる物語だ。

私、花林は今宵、皇帝様の花嫁となりまして———