分かりません、分かりませんわ。全く分かりません。
 例えばそう、スズメが朝顔に丸呑みされたかのような。或いは、ブタからニワトリが生まれ落ちたような。そう言った理不尽さを見せつけられた、不思議で不快な気分で一杯です。
 あれ程の異例を、私はこれまでに見たことがありません。いえ、実際に全てを目にしたことはありませんわ。ただ何故だか、こう、何となく知っている事象が沢山あって、でもその中には見当たらないのです。
 ああ、どうしてこんなにも、知る喜びではなく、理解が及ばない事への腹立たしさが勝るのでしょう?


 ──おやまあ、大荒れなこと。不機嫌そうに出て行ったかと思えば、頭を抱えて戻ってきて。
「あらあら、また随分とお久しい声。お茶でもお出しすべきなのでしょうが、その呑気な言い草に内心ささくれ立ってしまいましたわ。ぶぶ漬けでも召し上がります?」
 ──ええ頂きましょうか、って、神に八つ当たりとは、貴女も大した方ですね。この千年は身に覚えがない皮肉に腰が抜けそうですよ……。先のそれは、貴女にとって、そんなに頭を悩ます程の事でしたか?
「全知全能で悉くをお見通しの神様にとっては、大したことではないのでしょうね。ですが、胸がざわついて治まらないのです。いえ、実体の胸は無いのですが、それでもどうにも辛くて」
 ──ほお。それは貴女、彼らの言動に心を動かされている証なのでは?
「心を……?一体何をお言いになるのでしょう。この私が、ちょっとやそっとで動じることなど、あるはずがありませんわ」
 ──そうは言っても、貴女があれを受け入れられていないのは事実でしょう?それは、貴女の懐の容量が足りていないことを表しているのではありませんかね。
「…………私に血管なるものがあればとうに切れているところですが、正直反論はでき兼ねますわ。そう、懐の……。となれば、悪いのは私ではなく、私の精神的未熟さなのではないかしら……。いえきっとそうです、私がまだ年若いからですわ」
 ──ぶつぶつと怖……。これが所謂、中二病というものですか。
「いえ、気が付いたのですよ。言われてみれば私は、まだまだ幼い身だということに。ええ、ええ。きっとそうに違いありません。心乱されるのも、苛々するのも、若輩の身ゆえ。ですので少々、お時間頂けませんか?あの少年らの愚行と、それに至るまでの心情の移り変わりに関しては、しっかりと砕き、下すのに、幾ばくか掛りそうですの」
 ──少々も何も、貴方には時間が沢山あるでしょうに。どうせまた、引きこもるのでしょう?
「ああだのこうだのと、口喧しいこと。神様というのは、個体に時間を掛けられる程お暇なのかしら。ともかく、私はじっくりと考えてみたいのです。彼らの選択が正しかったのか……、いえ、違いますわね、彼らを止めなかった私に非は無かったのかを」
 ──おや、おや。そう、後悔したのですか、貴女は。
「後悔、とは異なる気がしますが、まあ、大きく捉えればそうなのでしょう。どうにかして私は、あの時の私の正当性を、導き出したいのです。きっとこの思いが、胸のもやに繋がっているのでしょうから」
 ──そうですか。でしたら私はもう、お暇しましょう。次に会えるのはいつになるか分かりませんが、それまでに貴女が納得のいく答えを出せていることを祈っていますよ。
「神が、何に祈ると言うのでしょう。不思議な方。それでは、おやすみなさい」
 ──……はあ。おやすみなさい、サクヤ。