日本のどこか。とある県の、とある市に属する、小さな町の中。
そこに、一つの公園があった。
約三千平方メートルの面積の内に砂場やベンチがぽつぽつとあり、ど真ん中には、どっしりとした桜の木が一本、生えているだけ。一見何てことない街区公園だ。
ただ一点を除けば、の話だが。
ある噂があった。
「その公園に極まれに現れる、白っぽい服の不思議な女性に出会えると、幸運が訪れる」
というもの。
ある時は女性ではなく、少女で。
またある時は少女ではなく、老婆で。
噂話も少しずつ形を変えながら、ただ、「白っぽい服」の部分は一切変更されることなく、脈々と伝わっていた。
いつから、誰が言い始めたのか、知っている者は一人も存在しない。
だが、その町の住人は何故か、その噂話をうっすらと、いつの間にか知っているのだ。
春を待つ花たちが、今年もまた、蕾をつける。


