抜本的な対策が必要だった。疲弊した社員の心に温かい風を吹き込まなければならない。それも、大至急。
先ず、前支社長の取り巻きを全員、大阪本社へ送り返した。降格という土産つきで。次に、パワハラで精神に大きな傷を受けた社員を見舞い、仕事に復帰できるよう全面的にバックアップすることを約束した。そして、妊婦ハラスメントで辞めざるを得なかった女性社員の自宅を訪問して、会社の非を詫び、「ぜひ復職してほしい」と懇願した。
その次にやったのは、社内の整理整頓だった。こんな乱雑な状態では仕事が捗るわけはなかった。それに、重要な書類とどうでもいい書類が混在しているのだ。間違って重要な書類を廃棄する可能性があるし、取引情報や個人情報が漏れる危険性だってある。放置するわけにはいかなかった。
「今日は一日、机の周りや社内の片付けに専念してください」
全員を集めた朝礼で指示を出した。そして、汚い社内を見渡して、方々を指差しながら申し渡した。
「机の上が整理できない人が仕事の優先順位を付けられるはずがありません。先ず、机の上を片づけてください。無駄な書類や古い書類は破棄してください。重要な書類だけを残してください。重要な書類は鍵のかかる引き出しなどに保管してください。定時になって会社を出る時は机の上には電話以外何もない状態にしてください」
その日は2台のシュレッダーがフル回転だった。切り裂かれた書類を詰め込んだ大きなビニール袋が何十個も積み上がっていった。
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終業時間のチャイムが鳴り、わたしは社員に声をかけた。
「お疲れさま。今日は残業を禁止します。今すぐ全員帰ってください。明日からの仕事のために英気を養ってください」
社員はびっくりしたような表情を浮かべたが、すぐにラッキーというような感じになって、「お疲れ様でした」と挨拶をしながら、いそいそと会社を出て行った。
全員が退社したのを見届けて、確認するために社内をゆっくりと歩いた。全員の机の上が何も置かれていない状態になっていた。放置されていた段ボールも片付けられていた。
これでよし、
明日からの再スタートに思いを巡らせた。
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翌朝の朝礼で、全員に対して宣言をした。
「地位や権力を利用した嫌がらせや性的嫌がらせ、そして、妊婦に対する嫌がらせなど、すべてのハラスメントを根絶します。やらない、させない、許さない、の『ハラスメント三ない運動』を徹底して推進します」
すると、社員の顔にほっとしたような表情が浮かんだのが見えた。中には疑わしそうな目をしている者もいたが、殆どの社員はわたしの言葉を前向きに捉えてくれているように感じた。それで意を強くしたので、全員の顔を見回して、もう一つ宣言した。
「わたしは昼食は一人で食べます。社員の誰かを誘うことはありません。特定の誰かとお酒を飲むこともしません」
取り巻きは作らない、誰も依怙贔屓しない、という宣言だった。



