ぶち破る勢いで扉を開けると、蹲る背中がすぐに目に入った。まだここまで火が届いていない事に安堵する。
「ハル!」
俺に気が付く余裕すらないようだ。駆け寄って背中に触れるとびくん、と彼女の体が跳ねる。
「いや……っ!」
「落ち着け!俺だよ」
肩を掴みこちらを向かせる。彼女が両目を見開いた。
「ど……して……?」
およそ二ヶ月ぶりに見るその瞳は、あの夜と同じように涙で濡れていた。
「火事になってる。逃げるぞ」
扉を開けた際に入ってきた煙が、もう部屋に充満していた。そのまま彼女を横抱きにし立ち上がる。

「何も見るなよ」
「……っ」
「目を瞑って、しがみついてろ」

腕の中の華奢な体は、まだ震えていた。それでも頷いて俺の胸に顔を埋めてくる。

「行くぞ。ハル」

死なせない。絶対。強く決意し部屋を出た。