翌日、雪梅はゆっくりと目を開ける。

 隣に眠っている天翊が目に飛び込んできた。昨夜の記憶がよみがえり、耳まで真っ赤に染める。

 そろり、と寝台を抜け出そうとすると、手首を掴まれた。

「起きるのが早いな」
「お、お目覚めでしたか、陛下……」

 雪梅は寝台に横たわっている天翊に顔を向ける。彼は雪梅の手首を離して後ろから抱きつく。

「へっ、陛下……?」
「……細いな、そなたは」
「そ、そうでしょうか……?」
「ああ、しっかり食べなさい。あまりにも細くて、こうして抱きしめていたら折れそうだ」

 うなじに天翊の髪が触れ、くすぐったくなり雪梅はくすりと笑いを漏らす。

 こうして誰かに心配されるのは、なんだか胸の奥がムズムズとしてきて不思議な気持ちになる。だけど、その感覚は嫌ではなかった。

 心に温かな火が灯るようで、雪梅は目を閉じて天翊の腕の中で微笑みを浮かべる。

「……陛下、体調は大丈夫なのですか?」
「ああ。いつも感じる痛みもなく、爽やかな気分だ」
「昨日から気になっていたのですが、その『痛み』とは……?」

 天翊は雪梅を抱きしめていた腕を緩め、寝台から降りて彼女の前に立った。

「話をする前に――そなたに伝えることがある」

 天翊を仰ぎ見る雪梅は、首をかしげた。なにを伝えるのだろうかと、鼓動がドキドキと早鐘を打つ。

「五色の羽を持つ鳥を助けたと言っていたな?」
「はい。とても綺麗だったので、今でもすぐに思い出せます」
「――その鳥は、『鳳凰』と呼ばれている」

 一瞬、雪梅は自分の耳を疑った。晨明国で誰もが知る(ずい)(じゅう)の名だったからだ。

「……えっ?」
「そなたは『鳳凰』に選ばれた嬪だ」

 目を数回瞬かせて、雪梅は口元を両手で覆い、うつむいた。

(私が……鳳凰に選ばれた? そんなことが、あるの?)

 混乱して、思考がまとまらない。

 雪梅の心中を推し量り、天翊は膝をついて彼女を見上げる。

「本当、なのですか……?」
「ああ。我の体調不良は、番いと交わることで解消されるらしい」
「解消……?」
「……我は、呪われているのだ」

 眉根を寄せて言いよどんだが、天翊は雪梅と視線を合わせて静かに語った。

「呪い……?」
「そうだ。宮廷に来ている道士から、断言された。我に加護を与えた龍も同じことを言っている」
「道士? 龍?」

 雪梅は普段聞かない単語に頭の中がかき乱され、天翊はそんな彼女に手を差し伸べる。

 天翊の手を握ると、彼は立ち上がり、それにつられて雪梅も立ち上がった。

「これから話すことを、信じてほしい」
「……陛下……」

 切実さを感じ取り、雪梅は小さくうなずく。

 雪梅と天翊が椅子まで移動すると、雪梅は自身が冷静になるためにも「お茶を用意しますね」と、雪代宮の小厨房に向かった。