「……白賢妃と仲がよいのは意外だったが……」
『そうだな。あのワガママ賢妃と親友なんて、信じられん』

 宮廷で宰相をしている白(イー)(ニン)の娘、万姫。白家の権力を使い、四夫人にねじ込んできた。

 四年前に万姫が後宮入りしてから、後宮内で不審なことが起こるようになった。

 宮女が何人も消え、さらには貴妃でさえその姿を消した。調査をしたが、その指揮を以寧が()り、その結果は――……なにもわからない、で終わった。その後、とある庭園で行方不明になっていた人たちが、遺体として発見された。

「仕掛けてくると思うか?」
『あのワガママ賢妃ならあり得るだろう』

 目を伏せて、唇を噛み締める天翊。

 現在の後宮は貴妃以外の淑妃、徳妃、賢妃が揃っている。

 貴妃が遺体として見つかってから早二年。その座を埋める者も、皇后の座につく者もいなかった。

 選ぶ余裕がなかったともいえる。

『しかし、賢妃と昭儀が同じ時期に後宮入りするとはな』

 天翊は「そうだな」と小さくこぼす。

 ふたりが後宮入りした日を調べてみたが、万姫のほうが数ヶ月早かった。

 白家と藍家は名家だ。しかし、育ってきた環境はまったく違う。

 特に藍家の雪梅は、父親と侍女の月鈴以外と接していた様子がない、と書かれていた。

 白家の万姫は、宮廷の宰相の娘ということで、あまたの男性から求婚をされていたらしいが、それをすべて蹴り後宮の賢妃という位についた。自身がなぜ貴妃ではないのかと腹を立てていたが、そのうちに割り切ったようだ。

 以寧という後ろ盾があるからか、万姫の後宮での(おこな)いはあまりにも酷かった。

 他の妃嬪よりも自分を優先しろとばかりの態度に、(へき)(えき)していたのも記憶に新しい。

 執務が終わり身体を休ませようとしたら、狙いすましたように以寧から話しかけられ『娘が陛下と大事な話をしたいようなので、本日は絶対に賢妃の宮、(かざ)(はな)宮に行ってくださいね』と念を押されていた。

 仕方なく訪れた風花宮で、万姫の『大事な話』を聞いていたが、要領を得なかった。

 自身がどれだけの男性を魅了してきたか、勉学に励んでいたか、家柄についてを話していたが、要は自慢話だ。自身が一番皇后にふさわしいと言いたいのだろう。聞いているうちに呆れのほうが(まさ)ってしまい、適当に話を切り上げて風花宮から去った。

 しかし、その途中、突然身体に異変が起きた。とにかく、全身が熱くなり女性を求めてやまなくなったのだ。

 万姫が用意した酒の中に、媚薬が入っていたらしい。

 その前から続く体調不良も、万姫に会ってからだと、不快そうに顔をしかめる。

『鳳凰が選んだということは、彼女が〝鍵〟になりそうだな』

「……ああ」

 天翊に加護を与えた龍は、『体調を戻すには、(つが)いを見つけなければならない』と言い切った。

 いったいどんなことが、この体調不良を回復させる〝鍵〟になるのか――天翊は長考しているうちに眠くなり、再び雪梅を抱きしめて自身も眠りに落ちた。