「こんなに平穏な朝は、久しぶりだ。感謝する」
「いえ、私にできることは、限られていますので……」
緩やかに首を横に振って、雪梅は自身が作った料理に箸を伸ばす。
天翊は彼女にならい食事を摂り、食後には月鈴が用意したお茶を飲んだ。飲み頃のお茶は気持ちをホッとさせてくれる。
「あの、陛下。後宮では鳥を飼っているのでしょうか?」
「鳥? ああ、飼育している場所があるはずだが、それがどうした?」
「実は、昨夜、陛下がこの宮にいらっしゃる前に、怪我をしている鳥を手当てしたのです。私の見間違えかもしれませんが、その鳥の羽が五色に輝いて、とても綺麗だったので……」
それに、あのときの声はいったい? と疑問を抱きつつ、お茶を飲む雪梅。
「五色に輝く……そうか、そなたが選ばれたのか」
「選ばれた?」
「その話は、またあとで」
お茶を飲んでから、天翊は立ち上がった。
「世話になった」
短く雪梅に告げて、天翊はその場を去っていった。足取りはしっかりとしていたので、雪梅はただ彼の背中を見送った。
「……夢、ではないわよね……?」
ぽつりとつぶやき、雪梅は自分の頬をつねった。ジンッと痛みが広がって、現実だと実感が湧いてくる。
「……『感謝する』だって」
張り詰めていた力が抜けて、ゴンッと長案に自分の額をぶつけ、肩を震わせた。
月鈴から以外、聞かない感謝の言葉。それを皇帝である天翊に伝えられ、雪梅は胸を弾ませる。
「……『またあとで』?」
天翊の発言を振り返り、雪梅はがばっと勢いよく顔を上げた。
気になることはたくさんあったが、今はまだなにもわからないまま。
その状態でいたからか、雪梅は今日一日、ソワソワしながら一日を過ごした。
日が暮れて薄闇になってきた黄昏時。雪梅は雪代宮門前で、立っていた。
いつ来るかはわからない。わからないが――後殿で待つ気にはならず、雪代宮門前で天翊を探す。
(今日いらっしゃる、わけではないかもしれないけれど……)
天翊は『またあとで』とだけ言ったのだ。今日来るとは一言も言っていない。
だけど、心が落ち着かなくて、待っていたい気持ちになった。
そんな雪梅の心境を知ってか知らずか――彼女の耳に足音が届いた。
「……陛下」
「……まさか、待っていてくれたのか?」
急いで視線を向けると、待ち望んでいた人物が徐々に近づいてくる。
天翊は目を見開き、すぐにふっと表情を和らげた。
雪梅の前に立ち、そっと彼女の頬に手を添えた。
天翊の温もりを感じ、雪梅はびっくりして彼の手に自分の手を重ねた。
「陛下はとても温かいのですね……」
「いや、そなたが冷えているだけだ。……中に入ろう。身体を温めなければ」
ふたりは歩き出し、雪代宮の中に入り雪梅の寝室に足を進める。
歩いている間、ふたりはなにも喋らなかった。
「いえ、私にできることは、限られていますので……」
緩やかに首を横に振って、雪梅は自身が作った料理に箸を伸ばす。
天翊は彼女にならい食事を摂り、食後には月鈴が用意したお茶を飲んだ。飲み頃のお茶は気持ちをホッとさせてくれる。
「あの、陛下。後宮では鳥を飼っているのでしょうか?」
「鳥? ああ、飼育している場所があるはずだが、それがどうした?」
「実は、昨夜、陛下がこの宮にいらっしゃる前に、怪我をしている鳥を手当てしたのです。私の見間違えかもしれませんが、その鳥の羽が五色に輝いて、とても綺麗だったので……」
それに、あのときの声はいったい? と疑問を抱きつつ、お茶を飲む雪梅。
「五色に輝く……そうか、そなたが選ばれたのか」
「選ばれた?」
「その話は、またあとで」
お茶を飲んでから、天翊は立ち上がった。
「世話になった」
短く雪梅に告げて、天翊はその場を去っていった。足取りはしっかりとしていたので、雪梅はただ彼の背中を見送った。
「……夢、ではないわよね……?」
ぽつりとつぶやき、雪梅は自分の頬をつねった。ジンッと痛みが広がって、現実だと実感が湧いてくる。
「……『感謝する』だって」
張り詰めていた力が抜けて、ゴンッと長案に自分の額をぶつけ、肩を震わせた。
月鈴から以外、聞かない感謝の言葉。それを皇帝である天翊に伝えられ、雪梅は胸を弾ませる。
「……『またあとで』?」
天翊の発言を振り返り、雪梅はがばっと勢いよく顔を上げた。
気になることはたくさんあったが、今はまだなにもわからないまま。
その状態でいたからか、雪梅は今日一日、ソワソワしながら一日を過ごした。
日が暮れて薄闇になってきた黄昏時。雪梅は雪代宮門前で、立っていた。
いつ来るかはわからない。わからないが――後殿で待つ気にはならず、雪代宮門前で天翊を探す。
(今日いらっしゃる、わけではないかもしれないけれど……)
天翊は『またあとで』とだけ言ったのだ。今日来るとは一言も言っていない。
だけど、心が落ち着かなくて、待っていたい気持ちになった。
そんな雪梅の心境を知ってか知らずか――彼女の耳に足音が届いた。
「……陛下」
「……まさか、待っていてくれたのか?」
急いで視線を向けると、待ち望んでいた人物が徐々に近づいてくる。
天翊は目を見開き、すぐにふっと表情を和らげた。
雪梅の前に立ち、そっと彼女の頬に手を添えた。
天翊の温もりを感じ、雪梅はびっくりして彼の手に自分の手を重ねた。
「陛下はとても温かいのですね……」
「いや、そなたが冷えているだけだ。……中に入ろう。身体を温めなければ」
ふたりは歩き出し、雪代宮の中に入り雪梅の寝室に足を進める。
歩いている間、ふたりはなにも喋らなかった。



