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 「こんなもの、かしら」

 なにが好きなのかわからなかったので、とりあえず自分ができる最大限の努力をして何品か料理を用意した。

 額ににじんだ汗を(ハン)(カチ)(ぬぐ)い、月鈴と一緒に料理を運ぶ。

 雪梅は、昨夜の天翊の様子から、まともに食事をしていないのではないか、と(ゆう)(しょく)をただよわせる。

 料理は雪梅の寝室に運んだ。

 (テー)(ブル)の上に料理を並べる。すべての料理を並べてから、月鈴はお茶を用意しに雪代宮の小厨房へ戻っていく。

「……陛下、陛下。体調はいかがですか?」

 すやすやと気持ちよさそうに眠っている天翊を、軽く揺さぶって起こす。彼はぱちりと目を開けて、辺りを見回した。

「おはようございます。朝食を用意しました。一緒に食べませんか?」
「そなたは……」
「藍家の娘です。昭儀の位ですわ」
「藍昭儀……ああ、四年前に入ってきた嬪か」

 むくりと起き出して、天翊は髪をかきあげた。そして、ハッとして目を(みは)る。

「ど、どうされましたか?」
「……いや、いつもの痛みがないことに、驚いただけだ」
「いつもの痛み?」
「気にするな」

 天翊は寝台から降りて、鼻腔をくすぐる朝食の匂いに気づき、ちらっと彼女を見て寝台から抜け出し、長案に近づいた。

「朝食……?」

 後宮で配膳されているような料理ではなく、いかにも雪梅自身が作りましたという料理が並べられていることに疑問を抱き、天翊は彼女をじっと正視する。

「これは……そなたが作ったのか?」
「はい。私は食が細くて……尚食の人にお願いして、厨房を借り、自分が食べられる量を作っています。もっとも、作っているのはほとんど、侍女なのですが」

 ふふ、と口元に手を添えて微笑む雪梅に、天翊は「そうか」とだけ答えた。

「お腹は空いていませんか?」
「……空いているようだ」

 天翊は腹部に手を添えて、自身の状態を確認した。

(最近続いていた全身の痛みや下腹部の熱さがなく、頭もスッキリとしている。起こされるまで眠り続けていたことも不思議だ……)

 普段であれば、起こされる前に人の気配を感じ取り目が覚める。

 だが今日は、雪梅に起こされるまで熟睡していた。

 深く眠れたからか妙にスッキリとしていて、身体が軽い。

「……いただこう」

 天翊は椅子に座り、目の前に広がる食事を眺め瞳をきらめかせる。

 雪梅も椅子に座り、まずは彼女が食事を食べてみせる。この食事に毒はありません、と天翊に見せているのだ。

 彼はまず粥に口に運んだ。鶏肉と薬味が入っていて優しい味わいだった。

 不安げに瞳を揺らし、雪梅は天翊の反応をうかがう。

「……本当にそなたが作ったのか?」
「お口に合いませんでしたか?」
「いや、()()だ。こんなにおいしいものを食べたのは、久しぶりだな」

 ふっと天翊が目を細める。いったい彼は、どんなものを食べていたのかだろうと思考を巡らせながら、自分の作った料理が褒められて雪梅はぽっと頬を赤く染めた。

「安心いたしました」

 ふわりと花が綻ぶように笑う雪梅の姿を視界に入れ、天翊はドキリと自身の鼓動が跳ねた気がしてぐっと自身の胸元を掴んだ。

「……陛下、昨夜のことを、覚えていらっしゃいますか?」

 雪梅は声量を少し落として、ちらりと天翊を見上げる。

 天翊は目を伏せ、「……曖昧に」と肯定した。雪梅は昨夜のことを思い出してさらに顔面を紅潮させた。