翌日、雪梅は早朝に目覚めた。隣ですやすやと眠っている天翊の顔色がよくなっていることに気づき、ホッと息を吐いた。
彼を起こさないように、ゆっくりと寝台から抜け出し身支度を整え、部屋を出て後宮の厨房に向かう。
厨房からは、トントン、と包丁でなにかを切る音が聞こえてくる。こんな時間に厨房を使うのは、彼女しかいない。
「おはよう、早いのね、月鈴」
「おはようございます、藍昭儀。……あれ、なんだか雰囲気が変わりました?」
朝食の準備をしていた雪梅の二歳年下の侍女、羅月鈴。茶色の髪と瞳を持つ彼女は、雪梅にとって妹のような存在だ。藍家にいたときも、なにかと雪梅のことを気にかけてくれていた。
そのことがとても嬉しかったな、と当時の気持ちを思い出し、雪梅はふわりと口元に花を咲かせる。
「そうかしら? 今日はね、朝食を多めにもらいたいの」
「よかった、たくさん食べてくれる気になったんですね!」
月鈴は安堵したように表情を綻ばせる。雪梅は咄嗟に「ええ、まぁ」と肯定を返した。
雪梅の食は細く、あまり食事をしない日々が続いていたので、月鈴は工夫を凝らして料理を作っていた。
雪梅も尚食の人に許可をもらい厨房を使って、月鈴と一緒に食事を摂ることが多い。
藍家――林杏から離れて、ようやく思い切り息を吸えるようになった雪梅は、この四年間でだいぶ食べられるようになったのよ、と胸の中でつぶやきながら月鈴の隣に立つ。
「あのね、実は……」
雪梅は簡単に事情を説明した。驚愕した月鈴に苦笑を浮かべ、ぽんと彼女の肩を叩いた。
「わ、わたしの料理を、陛下が食べるのですか……?」
身体を震わせる月鈴を見て、雪梅は口元で両手を合わせる。
「……なら、私が作るわ。月鈴はお茶を用意してくれる? あなたのお茶は、とてもおいしいから頼みたいの」
にこっと笑う雪梅。安堵してパァッと顔を明るくする月鈴は、ドンッと自身の胸を拳で叩いた。
「お任せください!」
「ありがとう、助かるわ」
いつもの調子を取り戻した月鈴は、「なんのお茶にしようかな」と楽しそうに頬を緩ませ、茶葉を選びにいく。
その後ろ姿を眺めて、雪梅は厨房に置いてある食材を確認し始めた。
月鈴が切っていたのは搾菜だった。主食はお粥にするつもりだったのだろうと準備を始めた。
米を準備して洗う。目安は、水が透き通るまで。
鍋に米と水を入れて四半刻浸す。その間に、違う料理を用意しようと食材を手にし、雪梅はふふっと口元に弧を描く。
(食べてくださるかはわからないけれど、誰かのために料理をするなんて、なんだか心がくすぐったいわ)
彼を起こさないように、ゆっくりと寝台から抜け出し身支度を整え、部屋を出て後宮の厨房に向かう。
厨房からは、トントン、と包丁でなにかを切る音が聞こえてくる。こんな時間に厨房を使うのは、彼女しかいない。
「おはよう、早いのね、月鈴」
「おはようございます、藍昭儀。……あれ、なんだか雰囲気が変わりました?」
朝食の準備をしていた雪梅の二歳年下の侍女、羅月鈴。茶色の髪と瞳を持つ彼女は、雪梅にとって妹のような存在だ。藍家にいたときも、なにかと雪梅のことを気にかけてくれていた。
そのことがとても嬉しかったな、と当時の気持ちを思い出し、雪梅はふわりと口元に花を咲かせる。
「そうかしら? 今日はね、朝食を多めにもらいたいの」
「よかった、たくさん食べてくれる気になったんですね!」
月鈴は安堵したように表情を綻ばせる。雪梅は咄嗟に「ええ、まぁ」と肯定を返した。
雪梅の食は細く、あまり食事をしない日々が続いていたので、月鈴は工夫を凝らして料理を作っていた。
雪梅も尚食の人に許可をもらい厨房を使って、月鈴と一緒に食事を摂ることが多い。
藍家――林杏から離れて、ようやく思い切り息を吸えるようになった雪梅は、この四年間でだいぶ食べられるようになったのよ、と胸の中でつぶやきながら月鈴の隣に立つ。
「あのね、実は……」
雪梅は簡単に事情を説明した。驚愕した月鈴に苦笑を浮かべ、ぽんと彼女の肩を叩いた。
「わ、わたしの料理を、陛下が食べるのですか……?」
身体を震わせる月鈴を見て、雪梅は口元で両手を合わせる。
「……なら、私が作るわ。月鈴はお茶を用意してくれる? あなたのお茶は、とてもおいしいから頼みたいの」
にこっと笑う雪梅。安堵してパァッと顔を明るくする月鈴は、ドンッと自身の胸を拳で叩いた。
「お任せください!」
「ありがとう、助かるわ」
いつもの調子を取り戻した月鈴は、「なんのお茶にしようかな」と楽しそうに頬を緩ませ、茶葉を選びにいく。
その後ろ姿を眺めて、雪梅は厨房に置いてある食材を確認し始めた。
月鈴が切っていたのは搾菜だった。主食はお粥にするつもりだったのだろうと準備を始めた。
米を準備して洗う。目安は、水が透き通るまで。
鍋に米と水を入れて四半刻浸す。その間に、違う料理を用意しようと食材を手にし、雪梅はふふっと口元に弧を描く。
(食べてくださるかはわからないけれど、誰かのために料理をするなんて、なんだか心がくすぐったいわ)



