「雪梅と子どもを狙った罪は重い。そして――我に呪いをかけた罪もな」
「呪い……? なんのことですの?」
万姫は疑問を持ち、以寧はぴくりと眉を跳ねた。
「……そうか、お前は知らずに我を呪っていたのか。そんなに我が邪魔だったか、以寧?」
「……なんの話でございましょう」
「しらばっくれるな。呪いをかけていた証拠も、臣下が揃えたぞ。我は龍の加護を受けし皇帝。呪いの進行を遅らせ、こうして今は解呪できている」
天翊は雪梅から手を離し、腕を組んで以寧を睨みつける。
「娘に呪いをかけさせるとは、卑劣な者よ」
「どういうことですの、お父さま! あのおまじないは、なんだったの!?」
万姫は自身が知らずに天翊に呪いをかけていた事実を知り、混乱して以寧に詰め寄る。以寧は、沈黙を選んだ。
「そんな、わたくしが、天翊さまを……?」
ガタガタと身体を揺らす万姫。彼女は本当に天翊が自分を選ぶためのまじないだと信じていたのだろう。
幼い頃から、皇后になるのだと万姫は言い聞かされていた。
皇后になれば、この国一番の女性として輝けるのだから、と。
そのために以寧は、万姫を磨き上げたのだ。
高価な宝石や食材を与え、『万姫が一番皇后にふさわしいのだから、陛下を誘惑しなさい』と自分の都合で娘を後宮に入れた。
白家が権力を握るために。後宮と宮廷を、自分の思うまま操るために。
「白賢妃は冷宮行き、以寧は流刑に処す。……命があるだけ温情と思え」
冷たい口調のまま、天翊は最後にふたりの刑罰を言い渡し、以寧と万姫を残して雪梅と一緒にその宮から出ていく。
天翊が信頼している宦官たちは外で待機していたので、以寧と万姫をそれぞれ連れ出すように指示をした。
万姫は最後まで、雪梅に謝らなかった。天翊に呪いをかけていた事実に動揺していたようだが、自分の非を認めることはなかった。これからの彼女の生活を思い、雪梅は小さく息を吐いた。
「平気か?」
「はい。天翊さまと鳳凰が傍にいてくださいましたから。……私のわがままに付き合わせてしまい、申し訳ございません」
「謝ることはない。では、最後に……」
こくり、と雪梅は神妙にうなずく。
後宮に雪梅の母親を呼んだのだ。皇帝からの招待を無視はできないため、林杏は雪代宮に足を運んでいた。
後殿で雪梅と天翊のことを、待っているだろう。
「緊張しているようだな」
「母に会うのは、四年ぶりですから……」
雪梅の痛ましい笑顔に胸が締め付けられ、天翊はそっと彼女を抱き上げる。
「天翊さま!?」
「そなたには我がいる。鳳凰もな。臆することはない」
天翊の励ましは、雪梅の心に勇気を宿した。
「……ありがとうございます。私、母ときちんと話がしたかったのです」
皇后になる前にどうしても、と小声で続ける。
林杏から毎日聞かされていた、呪いの言葉。それを乗り越えることで、自分はもっと強くなれる――そう信じて、雪梅は林杏に会う決心をしたのだ。
「呪い……? なんのことですの?」
万姫は疑問を持ち、以寧はぴくりと眉を跳ねた。
「……そうか、お前は知らずに我を呪っていたのか。そんなに我が邪魔だったか、以寧?」
「……なんの話でございましょう」
「しらばっくれるな。呪いをかけていた証拠も、臣下が揃えたぞ。我は龍の加護を受けし皇帝。呪いの進行を遅らせ、こうして今は解呪できている」
天翊は雪梅から手を離し、腕を組んで以寧を睨みつける。
「娘に呪いをかけさせるとは、卑劣な者よ」
「どういうことですの、お父さま! あのおまじないは、なんだったの!?」
万姫は自身が知らずに天翊に呪いをかけていた事実を知り、混乱して以寧に詰め寄る。以寧は、沈黙を選んだ。
「そんな、わたくしが、天翊さまを……?」
ガタガタと身体を揺らす万姫。彼女は本当に天翊が自分を選ぶためのまじないだと信じていたのだろう。
幼い頃から、皇后になるのだと万姫は言い聞かされていた。
皇后になれば、この国一番の女性として輝けるのだから、と。
そのために以寧は、万姫を磨き上げたのだ。
高価な宝石や食材を与え、『万姫が一番皇后にふさわしいのだから、陛下を誘惑しなさい』と自分の都合で娘を後宮に入れた。
白家が権力を握るために。後宮と宮廷を、自分の思うまま操るために。
「白賢妃は冷宮行き、以寧は流刑に処す。……命があるだけ温情と思え」
冷たい口調のまま、天翊は最後にふたりの刑罰を言い渡し、以寧と万姫を残して雪梅と一緒にその宮から出ていく。
天翊が信頼している宦官たちは外で待機していたので、以寧と万姫をそれぞれ連れ出すように指示をした。
万姫は最後まで、雪梅に謝らなかった。天翊に呪いをかけていた事実に動揺していたようだが、自分の非を認めることはなかった。これからの彼女の生活を思い、雪梅は小さく息を吐いた。
「平気か?」
「はい。天翊さまと鳳凰が傍にいてくださいましたから。……私のわがままに付き合わせてしまい、申し訳ございません」
「謝ることはない。では、最後に……」
こくり、と雪梅は神妙にうなずく。
後宮に雪梅の母親を呼んだのだ。皇帝からの招待を無視はできないため、林杏は雪代宮に足を運んでいた。
後殿で雪梅と天翊のことを、待っているだろう。
「緊張しているようだな」
「母に会うのは、四年ぶりですから……」
雪梅の痛ましい笑顔に胸が締め付けられ、天翊はそっと彼女を抱き上げる。
「天翊さま!?」
「そなたには我がいる。鳳凰もな。臆することはない」
天翊の励ましは、雪梅の心に勇気を宿した。
「……ありがとうございます。私、母ときちんと話がしたかったのです」
皇后になる前にどうしても、と小声で続ける。
林杏から毎日聞かされていた、呪いの言葉。それを乗り越えることで、自分はもっと強くなれる――そう信じて、雪梅は林杏に会う決心をしたのだ。



