深刻な顔で考え込む雪梅。もしかして、と色を失う彼女に、天翊が「どうした?」と覗き込んだ。
「白賢妃は、『おまじない』を『お父さまから聞いた』と話していました。天翊さまが自分を選ぶおまじないだ、と……」
「我が白賢妃を?」
不快そうに顔をしかめる天翊は、こほんと咳払いをしてから、親指と人差し指で眉間を解す。
「……調べてみよう。白賢妃の『おまじない』を」
心配そうに天翊を見つめる雪梅は、ぎゅっと彼に抱きついた。
「どうか、お気をつけくださいませ」
「大丈夫だ。そなたたちのことは、我が守る」
雪梅を抱きしめ返し、力強く言葉を紡ぐ天翊。雪梅は目を閉じて、そっと彼の胸に自身の額を押しつける。
「……信じております。天翊さまのことを」
「ああ、任せなさい」
天翊は安心させるように、雪梅の背中をぽんぽんと叩く。優しい手つきにうとうとと眠くなってきた雪梅を抱き上げ、寝台まで運んだ。
「ゆっくり休みなさい」
優しく微笑んだ天翊が、雪梅の唇をなぞる。
音もなく唇が重なり、雪梅は愛しそうに天翊を見上げた。
「先に休ませていただきますね」
こくりと天翊が首を動かすのを見てから、雪梅は目を閉じる。
雪梅はすぐにすやすやと寝息を立て始め、天翊は彼女の髪に唇を落とし、柔らかな表情から一変して真顔になった。
天翊は部屋の灯りを消し、気配を殺して雪梅の傍にいた。
万姫が様々なものを雪代宮に運んでいたことは、月鈴から相談を受けていた。
どれも雪梅を――母子ともに痛手を負わせたいとしか思えない、と。
腹部が大きくなった雪梅は、天翊の子を宿していることをもう隠せない。
なるべく雪代宮から出ないように、と雪梅は天翊と約束を交わしていた。
雪梅は天翊との約束通り、ずっと雪代宮から出ていなかった。しかし、懐妊の情報が洩れ、万姫は何回も贈り物を運び続けた。
天翊は壁に背中をつけ、腕を組む。
雪代宮に配属した女官から、事細かに万姫の贈り物のことを聞いていた。
今まで贈っていたのはおそらく、雪梅の精神に負担をかけるため。そして、母子ともに痛みを与えるため、と。
推測に過ぎないが、万姫の性格を考えれば、女官が話していたことは、的を得ていると天翊は思う。
(仕掛けるとしたら、そろそろだろう)
天翊は自身の五感を研ぎ澄ますように、瞑想をする。
――誰であろうと、彼女たちを傷つける者は許さない。
瞳に熱い闘志を燃やしながら、天翊はそのときを待っていた。
女官たちの気遣いで知られていない万姫の思惑。万姫が自分の思うように物事が進まないと荒れていたと、以寧がちらちらと天翊を見ながら、自身の部下に話していたことを思い出し、はぁ、とため息を漏らす。
雪梅の寝息だけが聞こえる寝室に、何者かが近づいている気配を感じ、天翊は服に隠していた暗器を取り出した。
「白賢妃は、『おまじない』を『お父さまから聞いた』と話していました。天翊さまが自分を選ぶおまじないだ、と……」
「我が白賢妃を?」
不快そうに顔をしかめる天翊は、こほんと咳払いをしてから、親指と人差し指で眉間を解す。
「……調べてみよう。白賢妃の『おまじない』を」
心配そうに天翊を見つめる雪梅は、ぎゅっと彼に抱きついた。
「どうか、お気をつけくださいませ」
「大丈夫だ。そなたたちのことは、我が守る」
雪梅を抱きしめ返し、力強く言葉を紡ぐ天翊。雪梅は目を閉じて、そっと彼の胸に自身の額を押しつける。
「……信じております。天翊さまのことを」
「ああ、任せなさい」
天翊は安心させるように、雪梅の背中をぽんぽんと叩く。優しい手つきにうとうとと眠くなってきた雪梅を抱き上げ、寝台まで運んだ。
「ゆっくり休みなさい」
優しく微笑んだ天翊が、雪梅の唇をなぞる。
音もなく唇が重なり、雪梅は愛しそうに天翊を見上げた。
「先に休ませていただきますね」
こくりと天翊が首を動かすのを見てから、雪梅は目を閉じる。
雪梅はすぐにすやすやと寝息を立て始め、天翊は彼女の髪に唇を落とし、柔らかな表情から一変して真顔になった。
天翊は部屋の灯りを消し、気配を殺して雪梅の傍にいた。
万姫が様々なものを雪代宮に運んでいたことは、月鈴から相談を受けていた。
どれも雪梅を――母子ともに痛手を負わせたいとしか思えない、と。
腹部が大きくなった雪梅は、天翊の子を宿していることをもう隠せない。
なるべく雪代宮から出ないように、と雪梅は天翊と約束を交わしていた。
雪梅は天翊との約束通り、ずっと雪代宮から出ていなかった。しかし、懐妊の情報が洩れ、万姫は何回も贈り物を運び続けた。
天翊は壁に背中をつけ、腕を組む。
雪代宮に配属した女官から、事細かに万姫の贈り物のことを聞いていた。
今まで贈っていたのはおそらく、雪梅の精神に負担をかけるため。そして、母子ともに痛みを与えるため、と。
推測に過ぎないが、万姫の性格を考えれば、女官が話していたことは、的を得ていると天翊は思う。
(仕掛けるとしたら、そろそろだろう)
天翊は自身の五感を研ぎ澄ますように、瞑想をする。
――誰であろうと、彼女たちを傷つける者は許さない。
瞳に熱い闘志を燃やしながら、天翊はそのときを待っていた。
女官たちの気遣いで知られていない万姫の思惑。万姫が自分の思うように物事が進まないと荒れていたと、以寧がちらちらと天翊を見ながら、自身の部下に話していたことを思い出し、はぁ、とため息を漏らす。
雪梅の寝息だけが聞こえる寝室に、何者かが近づいている気配を感じ、天翊は服に隠していた暗器を取り出した。



