誰が見ても、天翊の容姿を『(たん)(れい)』と絶賛するだろう。そんな男性の瞳に自分が映っている。

「……それは、もしかしたら……私の特殊能力が関係しているのかもしれません」
「特殊能力?」

 神妙な面持ちでこくりと首を動かし、雪梅は月鈴に(しょう)(とう)を持ってくるように指示をした。

 月鈴は「かしこまりました」と頭を下げて寝室から出ていき、すぐ小刀を持ってきた。

「藍昭儀の肌を、傷つけるわけにはいきませんから」

 小刀を受け取ろうと手を伸ばした雪梅に対し、月鈴は(かたく)なに小刀を渡そうとはしない。

「それでは私の力をお見せできないわ」
「わたしが傷をつけるので、癒すところを見せてください」

 雪梅が困ったように頬に手を添えると、小刀を握って自身の人差し指をさくっと傷つける月鈴。ぎょっと瞠目したのは天翊だ。

「いったい、なにを……」

 ぷくりと赤い血が出てきた月鈴の人差し指。その場所に雪梅が手をかざすと、淡い光が怪我をしたところに注がれる。

「これは……」

 光が収まると、月鈴の怪我はすっかりと治っていた。

「……これが私の特殊能力です。この力を知っているのは、月鈴と藍家の父だけです」
「傷を癒す……いや、人を癒す力、か。なるほど、鳳凰に選ばれるわけだ」

 天翊は感嘆の息を吐き、組んでいた手を解き、髪をかき上げる。

「発言をお許しください、陛下」
「許す。申してみよ」
「藍昭儀は、藍家にいた頃から『癒す力』を持っていました。わたしが怪我をしたとき、今と同じように怪我を治してくださり……その場面を藍昭儀の父君が目撃したのです」

 月鈴は緊張しているのか、わずかに身体を震わせながら話す。

 雪梅は懐かしむように目を細めて、当時のことを思い出した。

 階段から転んで膝を擦りむいた月鈴。彼女は泣くのを堪(こら)えていたが、目には大粒の涙を浮かべていた。

 その姿が痛々しくて、声をかけたのがきっかけで、雪梅と月鈴は仲良くなったのだ。

「父君は、『このことは誰にも言ってはいけないよ。その力はとても尊いものだから』と、わたしたちに釘を刺しました」
「……なるほど。知っている人が限られているから、藍昭儀の力のことが外部に漏れなかったのだな」

 英断だ、と天翊は考える。その力が外部に知られたら、彼女が後宮に入ることはなかっただろう。藍家から出されず、力を使いすぎて果ててしまったかもしれない、と最悪の事態を想像して長く息を吐く。

「なので、どうか陛下もご内密にしてくださいますよう、お願い申し上げます」

 バッと勢いよく頭を下げる月鈴を眺め、天翊は「もちろんだ」と答えた。

「そなたはよい侍女を得ているな」
「ええ、私にはもったいないくらいの、よい侍女です」
「藍昭儀……」

 雪梅の自身への信頼に心を打たれ、月鈴は涙ぐんでいる。

 ふたりの様子に(なご)やかな気持ちになったが、天翊は真剣な面持ちに切り替えた。

「……我は四年前から、あることに悩まされている」