お魚雲……、
会議が終わり、会場を出て何気なく見上げると、青空の中を泳ぐように動く魚の形をした雲が見えた。ゆっくりと幸せそうに泳いでいるようだった。
「何処に行くの?」
しかし、お魚雲は何も答えず、気持ち良さそうに泳いでいた。それでも、「海に帰るの?」ともう一度呼びかけると、今度は頷きを返してくれたように見えた。「気をつけてね」と見送って、交差点に向かって歩き出した。
信号が青に変わった。一歩踏み出すと、何かが聞こえたような気がした。空からのようだった。
「あなたはどうするの?」
見上げると、お魚雲が振り向いていた。
「もう決めたの?」
心配そうな声だった。
「どっちを選ぶの?」
2人の顔が空に浮かんだ。
「あなたならどうする?」
しかし、返事が届く前にクラクションが鳴った。
車道で立ち止まっていた。
慌てて渡って、息を整えてからもう一度空を見上げたが、お魚雲はどこにもいなかった。



