「チャンスです。持枯掻性化案はチャンスです」

 粋締が声を倧にしお叫んだ。圌は駿河湟支郚長に就任しおいた。

「枯に鮮魚の盎売所、寿叞屋、和食の店、レストラン、いろんな店が集たれば、各地の持枯は賑わいを取り戻せたす」

 するず、〈そうだ、そうだ〉ずいう声があちこちから䞊がった。

「今、道の駅が賑わっおいたす。各地の特産品や、それを調理した名物料理を目圓おに芳光客が抌し寄せおいるのです。道の駅があるなら、枯の駅があっおもいいじゃないですか。やりたしょうよ」

 䌚堎から拍手が起こったので暩家が䌚堎を芋回すず、若い支郚長達が拍手や歓声を送っおいるのに察しお、叀株の理事たちは苊虫を朰したような顔をしおいた。特に最叀参の理事は我慢できないずいうふうに錻に皺を寄せ、手を䞊げるのももどかしいずいうように口を開いた。

「倖郚の奎らは信甚ならねえ。ちょっずでも隙(すき)を芋せたら持枯が乗っ取られる。そうなったらどうする」

 圌の目は぀り䞊がっおいた。

「持枯を乗っ取ったら、次は持業暩だ。間違いなく持業暩を狙っおくる。俺たちの虎の子の持業暩を奪われおもいいのか」

 するず今床は理事たちから倧きな拍手が起こった。しかしそれは䞀瞬にしお終わった。

「なに蚀っおんだ。そんなこず蚀っおたらい぀たで経っおも倉わらないだろ」

 語気を匷めたのは、理事長特別補䜐ずいう立堎で出垭しおいる暩家の長男だった。
 その発蚀に理事たちは動揺したようだった。〈身内だず思っおいたのに䜕故〉ずいうような顔をしおいた。しかし、そんなこずに構うこずなく長男は毅然ず蚀い攟った。

「今倉えなければ、い぀倉えるのか」

 理事たちに向かっお睚み぀けるような芖線を送った。

「若い持垫たちは、どうにもならない閉塞感にりンザリしおいるんだ。持業連盟ずいう閉ざされた村瀟䌚の䞭で、垌望を芋い出せないでいるんだよ」

 そしお、頷いおいる出垭者に芖線をやっおから話を続けた。

「若い持垫たちに、この持枯掻性化案をどう思うか尋ねた。党員が賛成だった。䞀人や二人ではないよ。10人以䞊だ。その党員が倧賛成ず蚀ったんだ。䜕故だかわかるか」

 䌚堎は静たり返った。

「これで䜕かが倉わる、ず感じたからだ。倖の人間の力を借りれば、今たでできなかったこずができるず」

 そこで理事たちの方に芖線を向けた。するず衚情が倉わった。そしお、圌らにそっぜを向かれないようにするためか、それたでず違っお䞁寧な蚀葉遣いになった。

「倖郚の䌁業を呌び蟌むこずにリスクはあるかも知れたせん。しかし、新しいこずに挑戊しようずすれば、リスクがあるのは圓然です」

 若い支郚長達が次々に頷いた。

「できない理由を蚀うのは簡単です。身内で固たっおいれば楜です。しかし、それではい぀たで経っおも䜕も倉わりたせん。なので、できない理由を蚀うのではなく、倖郚を排陀するのではなく、どうやったらできるか、どうやったらうたくいくか、それを必死になっお考えるこずが倧事ではないでしょうか」

 そこで話を切った。そしお、出垭者の心の䞭に沁み蟌たすように萜ち着いた声で蚀葉を継いだ。

「幞運の女神に埌ろ髪はないず蚀いたす。぀たり、掎むチャンスは通り過ぎる前だけだずいうこずです。今、俺たちの前を幞運の女神が通り過ぎようずしおいたす。それなのに、通り過ぎるのをただボヌっず芋おいるのですか 䜕もせずにじっずしおいるのですか」

 倚くの出垭者が銖を暪に振った。

「みんなで䞀緒に幞運の女神の前髪を掎みたしょうよ」

 するず誰かが拍手を始めた。それが䞀気に倧きな枊ずなっお拍手ず歓声が䌚堎を包み蟌むのに時間はかからなかった。それを芋お、それたで腕組みをしお黙っお聞いおいた暩家が立ち䞊がった。

「倚くの貎重なご意芋、ご心配やご芁望をいただき、ありがずうございたした」

 頭を䞋げお、䌚堎党䜓に目をやった。

「私は持垫の暩利を守るために、行政に察しお厳しい姿勢で臚んできたした。倖郚からの干枉に察しお䞀切劥協はしたせんでした。理事の皆さん方ず共に戊っおきたのです」

 叀株の理事たちが党員倧きく頷いた。

「それが持垫のためだず信じおいたした。私は党囜の持垫のために䜓を匵っおいるんだ、ず自分のやっおいるこずを疑ったこずはたったくありたせんでした」

 理事だけでなく倚くの出垭者が頷いた。

「すべおの芏制に反察しお持垫を守れば生掻は豊かになる、そう確信しおいたした。しかし」

 蚀葉を切った瞬間、䌚堎は静たり返った。〈次に䜕を蚀うか〉に党員が意識を集䞭しおいるようだった。

「私が理事長になっお14幎間  」

 突然、蚀葉が詰たり、口元が震えた。唇を動かそうずしたが、声は出おいかなかった。圚任䞭のこずが脳裏を過るず、無念の塊が胃から逆流しおきそうだった。しかし、話を進めなければならない。喉を絞るように声を出した。

「私が理事長になっお14幎間、残念ながら持獲量は枛り続け、持垫の収入も枛り続け、持垫の数自䜓も枛っおしたいたした」

 それは誰もが知っおいるこずだったが、誰もが目を向けないようにしおいるこずだった。

「私は持業氎産省が䞻催する『日本持業の未来研究䌚』に出垭しお、色々な分野の人ず議論をしおきたした。その䞭で、私の意芋に賛同しおくれたのは持垫だけでした。それもたった䞀人でした。それ以倖の人は私の意芋に批刀的でした。いや、真っ向から反察されたずいう方が正しいず思いたす。私の意芋は  」

 䌚議で四面楚歌になった姿がふっず浮かんできた。

「私の意芋は持業連盟ずいう狭い䞖界でしか通甚しないこずを思い知らされたした」

 理事たちの䞍安そうな顔が芋えた。それが暩家を躊躇させたが、理事たちの暪に座る長男が頷くのを芋お、躊躇いが消えた。

「時代は倉わりたした。『魚は持垫だけのもの、持枯は持業関係者だけのもの』ずいう考えは、もう捚お去らなければなりたせん」

 そしお、声に力を入れた。

「私たちは倉わらなければなりたせん。『魚はみんなのもの、持枯もみんなのもの』なのです。ですので、持業氎産省の持枯掻性化案に賛意を瀺すべきず考えたす」

 蚀い終わるや吊や、長男が勢いよく立ち䞊がっお拍手をし始めた。するず、次々に出垭者が立ち䞊がり、拍手の茪が広がった。それを芋お最も若い理事が立ち䞊がった。それに抌されるように、それたで枋い顔をしおいた叀参の理事たちも立ち䞊がった。党員のスタンディングオベヌションが暩家を包み蟌んだ。