【魔王の仔視点】

空は静かだった。
音も、風も、光さえも、まるで時間が止まったように、すべてが遠ざかっていた。

僕の目の前で、君は倒れていた。
血の色に染まった大地に、刀だけがまだ力を宿していた。
でも、それももう限界だった。
君の命と共に、その力も静かに消えていこうとしていた。

僕は、ただ理由もなく、立ち尽くしていた。
ほとんど何もできなかった。
止めることなんて、できなかった。

「やっぱり……来ちゃだめだった」
呟いた声は、もう君には届かない。
だけど、きっと分かってたんだよね。
これが、自分の役目だってことを。

君は、最後まで戦った。
僕を守るために。
仲間を守るために。
世界を守るために。
そして、何よりも君は、ずっと自分自身と戦っていた。

君が落としたその刀に、僕はそっと手を伸ばす。
重く、冷たかった。
でも、あの日、初めて手を伸ばしてくれた時の、あの温もりが確かに残っていた。

だけど、もう君はいない。
それでも、きっとどこかで、また会えると信じてる。
それが希望でも、呪いでも、なんでもいい。
君がいた、この世界を、僕は絶対に忘れない。

アイも、ザックもギンも、レオも、何も言わず、魔界に残る君をただ見つめながら⋯⋯涙をこぼしながら。
「ごめん」「ありがとう」という言葉を繰り返していた。

「……最初に、僕に話しかけてくれたの、君だったよね」
そう呟いた僕に、誰も何も言わなかった。
でも、それがよかった。

君の名前は、誰も知らない。
それでも、君が誰だったかは、みんな知っていた。
名前なんてなかったけど、君は、間違いなく、僕らの仲間であり、戦友だった。

君がいなければ、この冒険は始まらなかった。
君がいなければ、誰も救われなかった。

扉は、静かに閉じられた。
そして封印のために呪文を唱え、完全に門は閉じられた
二度と開くことはない。
なぜなら。
君が、それを望んだから。

でも、もう君はいない。
それでもきっとどこかで、また会えると信じてる。
それが希望でも、呪いでも、なんでもいい。
君がいた、この世界を。
僕は、忘れない。