そんなワケで、クラン様との初夜を楽しみにスキップしながらも、私はクラン様に話しかけまくっていた。

「クラン様! お茶をどうぞ~!」
「クラン様、お肩こってませんか? マッサージしまぁす♥」
「クラン様~♥恋文を書いてきました♥初回なので短めに便箋3000枚ほどにしてます♥」

最終的に『うるさい!!』と怒られて執務室から放り出された。

仕方ないので夕食の時間まで寝室で大人しくすることに。
クラン様のベッドに大の字になってスーハーしていると、時間がアッという間に経過した。
(良い匂いでした~ハァハァ)

夕食時、クラン様は不敵に笑って私を待っていた。やだ、嬉しい♥

「クク……。この陰気な僕と食事するストレスに耐えれた妻はいないぞ」

自分で言っていてダメージを受けているっぽいクラン様はともかく、推しと向かい合って食事とか、神と大地と生きとし生けるもの全てに感謝してしまう奇跡でしかない。
ニヤケすぎて変顔してないかしらと顔を手鏡で確認したりしつつ、私はニコニコ顔でクラン様との食事を堪能した。

むしろ見惚れて手が止まったりしたけど、それを見たクラン様は「ククッ」と低く笑った。

「……食欲が無いようだな。それもそうだろう。こんな男と向かい合っているのだからな……」

また自分で言ってダメージを受けてるみたいなので訂正しておいた。

「大丈夫です! 生の推しを前に見惚れてるだけですから! 普段はクラン様をオカズに白米食べれるくらいですもの♥ キャーッ! 言っちゃった! ハズカシーッ! も~! クラン様が、あまりにも魅力的すぎなんですからぁ~!! ぷんすこ!」
「……は?」
「クラン様を拝みながら食べるお肉おいしい~! シャグシャグ!」

何故か軽く怯えているクラン様に私はワイン片手に熱弁した。
いかにクラン様が魅力的で、かけがえのない存在で尊いかについてを……。(陶酔)

「……」
クラン様は無言だったけど、次第に顔を赤くしていっていた。
そしてようやく口を開くと……。

「よくぞそこまで、詭弁をぺらぺらと……ッ!」

顔を真っ赤にしてキレてらっしゃる!?
なんで!? 今の会話中にキレポイントありましたっけ!?

クラン様の食欲が何故か無くなったようだけど、好きなのも尊いのも事実だから仕方ない。
主食・クラン様、副食・クラン様、おやつ・クラン様でイケちゃうガチ勢ですよこちとら!

食事中も何かと話しかける私にクラン様はゲッソリ疲れてしまったようだ。(しまった……!)

仕事で疲れる事が多い旦那様♥を疲労させてしまうなんて妻として失格だわ!


これは♥初夜♥で頑張って癒さないと! と、私は使用人ズに、目一杯おしゃれしてもらうように頼んだ。
その頃には皆、私がクラン様大好きガチ勢と何となく伝わったみたいで、協力的だった。

「奥様! 全身、スッベスベに磨き上げてみせますわ!」
「奥様! 良い香りがする石鹸をたっぷり使いますね!」
「奥様! マッサージでお体も柔らかくしておきます!」

おう! 頼むぜ! と男前に応えつつ、私は初夜に向けて筋トレしていた。
それでセクシー系の夜着を身に着けて夫婦の寝室(キャ♥)でドキドキしながら待っていたわけだけど……。

カチコチカチコチ……。(時計の音)

「……」

カチコチカチコチ……。(時計の音)

「……」

……クラン様、来なくね?

あ、あれ? 時計の針が予定時刻より2周くらい回ってるんですけど?
おかしいと思っていると、ようやく扉が開いた。

「……まだ起きていたのか」

クラン様は不機嫌そうだった。
けどバスローブをお召しになられていて、チラ見えする鎖骨や肌がたまらなく色っぽい! 不健康そうに見えて鍛えてらっしゃるのか、腕も男性特有の逞しさがあったハァハァ。
鼻血を噴きそうになるのを堪えるので大変だ!
こ、これからそのお体と……おぅふっ!! だめっ! 鼻血! 耐えて! 

と考えていると、クラン様は背を向けてベッドに横になった。
ん? どういう事だろ? 『好きにして♥』ってこと? 
結った髪から覗くうなじ、えっろ♥
なーんて不埒な思想に苛まれている私に、クラン様は溜息まじりに告げる。

「……さっさと寝るぞ」

寝る=ヤるというイミなら、何で背中向けてるんだろう?
しかしクラン様の言う『寝る』は本当に寝るだけらしい。う、嘘だろ……!?(ド低音)

「ど、どうして……」

問いかけるとクラン様は背中越しに語る。

「……いつ君と離縁しても後悔が無いように、だ。僕に媚びる君の行動の真意は掴めんが、その狂気的な勢いで僕と体を重ねた所で、後悔する日が必ずくる」
「え? 来ませんけど?」
いいから早くヤろうぜ! と拳を振り回しながら暗に急かすも「必ずくる!」とクラン様のお心は硬い。

それはクラン様なりの優しさなのだとわかった。

陰キャな死神公爵と陰口を叩かれ続け、2桁の嫁に逃げられたクラン様。
今度の嫁も自分を嫌になって逃げるだろうと思い込んでいるのだ。

その時に体の関係があるのと無いのとでは違うだろう。
ならば離縁の時まで白い結婚のままで……という、クラン様の不器用すぎる優しさだった。

ここで『そんなの必要ねぇからヤろうぜ!』と迫るのは、あまりにもクラン様の想いを蔑ろにしていることになるだろう。

仕方ないので、そこは私が折れて納得してみせた。





クラン様が私の女の魅力にムラムラして『抱かせてくれ!!』となった時は別よね?
それはねぇ~? もう雄の本能ですしぃ~? デュッフフフフフフフゥ~?

だから私はクラン様の背中にくっついて『あててんのよ』作戦に出た。
ふふふ、私の豊満なボディーの魅力に抗えるかしらクラン様♥

って思ってたのにぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!

「Zzzzzz……」

健やかな寝息が聞こえてきたで!

貧乳の私では背中も胸も区別がつかないらしく、クラン様は寝ておられる!
キィーッ! 悔しい!! この体勢じゃクラン様の寝顔も見れないし! と、背中にぺったりくっついたまま、私は眠れずにムラムラしたまま夜を明かすのだった……。