「できたっ」

 3品作り終わり、配膳も完了した。

「も、もう食べてもいいですかっ?」

 先生がソワソワしている。
 本当に可愛いなぁ。

「実は、最後の一手間があるんです」

 今日の料理は『ふわとろ』なオムライスだ。
 チキンライスの上に配置した半熟玉子焼きに、私は包丁を入れる。
 すると、

「わぁ、すごいっ」

 中から半熟玉子が溢れ出てきた。
 最後にケチャップを掛ける。
 さすがに、ハート型にする勇気はなかった。

「完成です。どうぞ、召し上がれ」

「頂きます!」

 先生ががっつきはじめる。
 こんなすらりとした超絶イケメンが、私の料理を夢中になって食べてくれている。
 胸が熱い。
 これが、愛か。

「精神汚染の呪術付きだがな」

 (さかい)様、うっさい。

「へいへい」

 それにしても、先生ってこうして見るとなんだか幼いなぁ。
 生徒たちに囲まれている時はずいぶんと大人びて見えたけれど、こうして一生懸命食べている姿はまるで子供だ。

「先生っておいくつなんですか?」

「はむはむっ。ハタチ――あ、いえ、21です」

 そりゃそうか。
 教育実習生ってことは、まだ大学生なんだ。
 成人しているとはいえ、社会人か子供かどっちだって言われたら、まだ子供寄りの年齢だよね。

 それにしても、ずいぶんと美味しそうに食べるなぁ。
 もしかして、手料理が珍しいのかな?
 親から愛情を受けてこなかった的な?

「手料理って」味噌汁で一息ついたあと、先生が言った。「本当に良いものですね。家庭の味って感じがして」

「その、親御さんは作ってくださらなかったのですか?」

「毒見――いえ、何でもありません!」

 …………?
 毒見って言った、今!?
 超ビッグ資産家の御曹司で、常に命を狙われているとか?
 マジで何者なんだ、三日月先生。

 毒かぁ。
 毒盛られるのは嫌だけど、3K(キツい、臭い、殺される)な退魔家業よりはよほどマシかな。
 境様の強大な霊力があれば、毒っても自動発動巫術で中和できるしね。

「そうだぜ。今のお前さんは、大怪我しても俺様が一瞬で癒やしてやるし、病気しても治してやる。そのうえ、攻撃巫術も地水火風なんでもござれだ。現代では人類最強なんだぜ、お前。感謝しな」

 はいはい、いつもありがとうございます。
 でも、わざわざ『現代では』って言及するってことは、平安時代では私よりも上がいたってことなのか。
 安倍晴明に弘法大師空海。
 陰陽道や真言密教全盛期の平安日本。
 ほんと、どんな魔境だよ。

「現代人が弱すぎるだけさ」

 ふぅん。
 などと脳内で境様と会話しているうちに、先生が食べ終わった。卵を3個も使って多めに作ったのに、ペロリだ。

「ごちそうさまでしたっ」

 食べてもらうって、やっぱりいいな。
 そこはかとない嬉しさがある。
 愛を育んでるっていうか、承認欲求と庇護欲を同時に満たせるみたいな?

「相変わらずエグい考え方をする女だぜ」

 食後のお茶を飲んでいると、先生がそわそわしはじめた。
 顔を真っ赤にして、こちらをちらちらと見ている。
 効いてる効いてる。

「先生? 大丈夫ですか、顔が赤いような。熱があるのでは?」

 私は立ち上がり、先生に寄り添う。

「失礼しますね」

 そうして、おでことおでこをくっつけた。

 ――ガタンッ

 先生が慌てて腰を浮かし、体勢を崩した。転びそうになる。
 先生が後頭部でも打ったら大変だと思い、私は両手で先生の後頭部をカバーする。
 私は、手指を怪我してもすぐに直せるし。
 だが先生は、私に怪我をさせまいとしたのか、身をよじった。

 ――ドサッ

 何をどうしたらそうなるのか、私は三日月先生に押し倒される形となった。
 だが、むしろ願ったり叶ったりだ。
 さぁ来い!
 キッスして来い! キッスだ!

 だが、先生はすぐに起き上がってしまった。

「すっ、すみませんっ」先生は、顔が真っ赤だ。「お怪我はありませんかっ?」

「大丈夫です。先生こそ大丈夫ですか?」

「私は大丈夫ですっ。熱があるかどうかも、後で測っておきますので」

 先生は私の顔や胸や脚をちらちらと見ながら、それでも必死に視線を外そうとしている。
 うーん、可愛い。

「暗くなる前に帰ったほうがいいですよ。まさか、家まで送るわけにもいきませんし」

「ウワサになっちゃいますか?」

「マズいでしょう?」

「私は、別に」

「――っ!?」

 先生、再び真っ赤に。
 あまりにも可愛いものだから、私は思わず笑ってしまった。

「か、からかわないでください!」

「からかってなんていません」私は先生の碧い瞳を見つめる。「私は本気です」

「――っ。とにかく、今日のところはこれで」

 解散っ、解散~っとでも言うかのように、両手をパタパタさせる先生。

「ちぇっ。分かりました」