平和が戻ってきた。
 事後処理でバタバタしていた日曜日を挟んでの、今日は月曜日。
 お昼休み、私は屋上のベンチでお弁当を食べている。
 私の隣に座っているのは、

「……今日の弁当に【魅了】は入っていないだろうな?」

 三日月エル先生の姿をした、ミカだ。

「入ってるわよ。当然じゃない」

「なんで入ってるんだよ!? あのな、(いつつ)。俺は【魅了】なんてされなくても、お前のことが――もがっ」

 私は、ミカの口に玉子焼きを突っ込んでやる。
 ミカが目を輝かせた。
 可愛いヤツめ。

「なぁ、伍。俺たちやっぱり、本当に結婚しないか? そのほうが九尾狐(きゅうびこ)様を騙さずに済むし、お前だって退魔師としてはかなり高待遇かつ緩めな仕事に就けるはずだ。そりゃ多少は3Kなところもあるかもしれないが、お前が無理をしなくて済むよう、俺が防波堤になってやれる」

「どーしよっかなー」

「お前は俺のためにお弁当を作り続けてくれている。【魅了】のことは本当にどうかと思うが……めちゃくちゃ歪んだやり方だが、俺からの好意を得たいから、してくれていることなんだろう?」

「はい、お味噌汁」

 私は魔法瓶からコップにお味噌汁を注ぎ、ミカに渡す。
 ミカが心底美味しそうに口をつける。

「はぁ、美味い。そうだ、そう言えば一昨日には、『ミカは私のもの』、『誰にも渡さない』とも言ってくれていた。それってつまり」

 私は、面白くない。
 さっきから、ミカが屁理屈ばかり並べ立てているからだ。

「はい、お茶――おっと」

 手が滑り、コップを取り落としてしまった。
 コップが3、4歩先にまで転がっていく。

「俺が拾うよ」

 ミカが立ち上がり、コップを拾ってくれた。
 ミカが振り向く。
 今朝、制服を着る際に、私はスカートの丈を1段上げてきた。
 そのほうが、ミカの視線を釘付けにできると知っているからだ。

「ぷっ、くくく。アンタ、私のこと好きすぎでしょ」私はこれ見よがしに足を組み替える。ミカの視線が心地良い。「見過ぎだから」

「この性悪女がっ。じゃなかった。つまり俺が言いたいのはだな――」

「私、気が短いの。知ってるでしょう? そういうのは男らしく、短く、はっきりと言って」

「言ったら受け入れてくれるんだな?」

「さぁてね?」

「あぁもう」ミカが顔を真っ赤にしながら、叫んだ。「好きだっ。愛してるっ。伍、俺と結婚してくれ!」

「――――っ!」

 胸が高鳴った。
 私は。
 私は、返事をするために口を開いた。