四季神(しきじん)巫由(ふゆ)は奇妙な状況にあった。
 そこにいるような、いないような。
 心地良いようでいて、不安なような。
 ふわふわとした気持ちだ。

 巫由の意識は、空を飛んでいた。
 飛びながら、巫由は神戸の街並みを見下ろしていた。

(あれは、(いつつ)?)

 夕暮れの街を、伍がスキップでもしだしそうなほどウキウキした様子で歩いている。
 伍の隣には、ちょっとびっくりするほどのイケメン男性。
 伍に写真を見せつけられた、伍の彼氏だ。

(あの顔、あの霊力――まさか、阿ノ九多羅(あのくたら)ミカエル様?)

 巫由は『なぜか』、伍の彼氏である三日月エルと同じ顔をした男性がミカエルであると知っていた。
 阿ノ九多羅家のご当主様。
 あの方と結婚するということは、退魔家の女なら誰もが羨む最高最強のステータスだ。

(妬ましい……)

 伍が――よりにもよって、あの出来損ないの出涸らし巫女が、ミカとデートしているのだ。
 伍が、ミカと手を繋いで歩いているのだ!

(妬ましい妬ましい! ミカエル様は、四季神家の巫女を嫁に、とご所望くださったのよ。つまり、あの手を握るのは私になるはずだったってことなのよ。……ううん、今からでも遅くはない。伍さえいなくなればっ)