四季神(しきじん)さん」ミカの部下の人が私を引っ張り戻そうとする。「危ないですから、これ以上は身を乗り出さないでっ」

「でもっ」

 私は上空から、ミカたちの戦いを見守っている。
 無理を言って、ヘリに乗せてもらったのだ。

 戦場は、四季神家の庭だった。
 悪い予感が的中したというか、ある意味では好都合というか。
 そう、あの家の庭は無駄に大きいし、防護結界が張られているから、凶悪なアヤカシを封じ込めるためには最適な場所と言える。
 認識阻害と防音の結界も張られているので、あの中でアヤカシがいくら暴れても、霊力を持たない一般人には何も視えないし聴こえない。

 問題の霊力1億単位超えの大アヤカシは、人型だった。
 小さい。
 成人男性と同じか、それよりも小柄なくらいだ。
 先日、ミカを殺しかけたあの巨人に比べれば、なんと小さなことか。
 けれど、その内に秘められた霊力は、バケモノそのもの。
 先日の巨人――1,000万単位超えですら『特級アヤカシ』と呼ばれていて、日本一の退魔師であるミカを圧倒できるのに、あれは1億単位超えだというのだから。
 溢れ出る黒々しい霊力のために、人型の具体的な顔貌(かおかたち)は判別できない。

 ミカを筆頭に、阿ノ九多羅(あのくたら)家の退魔師たちが必死に戦っている。
 巫術や真言密教術で戦う者、退魔銃や退魔剣で戦う者、様々だ。

 父と母の姿は、ここからでは視えない。
 アイツら……日頃偉そうなことを言っているくせに、いざアヤカシが現れたら、戦いの手伝いすらせずに隠れているらしい。

 姉たち――
 春神の巫女・(はるか)姉さん、
 夏神の巫女・那月(なつき)姉さん、
 秋神の巫女・千明(ちあき)姉さんがあの場にいたら、一緒に戦ってくれていたかもしれない。
 けれど姉さんたちはみな、様々な除霊案件のために出張中だ。
 そして巫由(ふゆ)は修行中であるため、下級アヤカシすらまともに祓えない。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前ッ!」
()ッ!」

 1対数十人ということもあり、幸いにして死者は出ていない。
 が、ミカたちは明らかに押されていた。

 この国で最も強いとされている阿ノ九多羅家の、当主と精鋭数十人をもってしても、足止めで精一杯だ。
 いや、足止めすら難しい状況なのだ。
 ひとり、またひとりと怪我を負い、動ける者によって後方へと移送されていく。
 何十人もいたはずの味方がみるみるうちに減っていき、ついにはミカひとりになってしまった。

「ミカ……がんばって」

 思い返せば、私は今まで、阿ノ九多羅ミカに対して好意的な言葉を掛けたことがなかった。
 日本のために、私たちの平和のために、あんなにボロボロになるまで戦ってくれている彼に対して、感謝や応援の言葉を向けたことがなかった。
 我ながら、なんて嫌なヤツだったのだろう。

「ミカ、お願いっ! がんばって!」

 私はヘリの上から、ミカの勇姿に向かって叫ぶ。

「ミカが食べたい物、なんでも作ってあげるからっ。だから、死なないでっ。がんばって、ミカ!!」

 私の言葉が彼の耳に届いたのかどうかは、分からない。
 だが、満身創痍のミカが、それでもありったけの霊力を拳に込めて、

「うぉおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオッ!!」

 大アヤカシの胴体に打ちつけた。
 次の瞬間、大アヤカシの口から何かが飛び出してきた!

「いやーっ、ビビったぜ」

 涙が出るほど懐かしい、その姿は、

(さかい)様!」