(いつつ)が、倒れた。
 ウィジャ盤に触れた瞬間、ビクリと体を震わせ、そのまま気絶してしまったのだ。

「伍!? しかりしろ、伍!」

 伍の体を揺さぶるが、目を覚ます様子はない。

(さかい)様とやら、聞いているんだろう!? 伍を助けてくれ!」

 伍の守護神に語りかけてみるも、姿は見えず、返事もない。

(くそっ、俺は無力だ。阿ノ九多羅家の当主でありながら、九尾狐(きゅうびこ)の姿を見ることすらできないほど、力がない……。いや、今はそんなことを悔やんでいる場合ではない)

 ミカは伍を抱き上げ、更衣室から飛び出した。
 伍の体がずっしりと重い。
 命の重さだ。

 ミカは校舎から飛び出す。
 すでに伍が掛けた認識阻害の巫術は切れており、生徒たちが『何事か』とこちらを見ているが、そんなことを気にしている余裕はない。
 校外に出た。

「姉さん、見ているんだろ!?」

 空に向かって叫ぶと、すぐに黒塗りのベンツが現れた。
 ミカの護衛たちが運転する車だ。
 ミカは伍を抱きかかえたまま、車に乗り込む。

「総合病院――いや、阿ノ九多羅(あのくたら)邸へ急げ! 対霊医療なら、家のほうが充実しているからな」

 車が出発する。

「治癒術師たちを集めろ。ありったけだ」

 社内の護衛たちがうなずき、テキパキと電話やネットで手配をしはじめた。