「――はっ!?」

 私は飛び起きた。
 とてつもない霊圧を感じたからだ。

「やべぇぞ、(いつつ)

 珍しく、(さかい)様が臨戦態勢だ。

「反応はどこから!?」

「■■高校だ。でけぇぞ」

「よりにもよって、私が通ってる高校じゃないっ」

 しかも、無敵の境様をして『でかい』と言わせるほどの相手とは。

 私は窓から夜空へと飛び出す。
 寝間着のままだけど、そんなことを気にしている場合ではない。

「【千里眼】!」

 私は【飛翔】の術で空を飛びながら、周囲数キロの状況を確認する。
 ■■高校に無数の動物霊の反応。
 うち1体はありえないほど大きい。

「誰かが戦っている。この霊圧は、阿ノ九多羅ミカか。なら大丈夫かな?」

 なにせ『日本退魔界の王』なのだから。

「いや、あの小僧には荷が重いようだぜ」

「だけど、うーん……」

 私が加勢を躊躇しているのは、周囲の目があるからだ。
 そう、阿ノ九多羅ミカ以外の退魔師たちが、■■高校に集結しつつあるのだ。
 阿ノ九多羅家の者たちか、はたまた霊害庁の職員か。

 私が行けば、あの巨大アヤカシを祓うことは容易い。
 が、衆目の前で私が巨大アヤカシを祓ってしまったら、私の実力がバレてしまう。
 とはいえ、阿ノ九多羅ミカを見捨てるのは寝覚めが悪い……。

「ええいっ! サクッと行ってサクッと倒して逃げる! そうと決まれば急ぐわよ!」

「そうこなくっちゃ。やっぱりおめぇは最高の女だぜ、伍」

「そりゃどうも!」

 私は霊力全開、ロケットのような速度で空を飛ぶ。
 ものの数秒で、■■高校上空に到達した。
 阿ノ九多羅ミカがズタボロになって倒れているのが見えた。
 巨人が、そんな阿ノ九多羅ミカに向けて今まさに拳を振り下ろそうとしている。

「うおおおおおおっ! 成ッ仏ッ!」

 私は勢いそのままに、巨人の脳天をぶん殴った。

 ――ギャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?

 悲鳴とともに、巨人が消滅した。

「は、ははは……」阿ノ九多羅ミカが弱々しく笑った。「なんだよそれ、その威力。俺、死すら覚悟してたっていうのに」

「悪かったわね。ほら、さっさと立ちな……さ……い……」

 阿ノ九多羅ミカに手を差し伸べかけて、私は固まった。




 阿ノ九多羅ミカが、仮面をしていなかったからだ。
 そこに、私の恋人・三日月エルの顔があったからだ!