数日後の、夜。
阿ノ九多羅ミカは、疲れ果てていた。
原因は、寝不足だ。
2ヶ月ほど前から、ミカは神戸で頻発している動物霊の除霊に従事していた。
阿ノ九多羅家の退魔師たちは全国各地で発生している他案件に回しているため、この件はミカが単独で当たっていた。
数日前に四季神伍が『誰かがコックリさんでもやっているのかも』と言っていたが、ミカも同じことを疑っていた。
コックリさんは、降霊術の一種だ。
狐狗狸という字面のとおり、キツネ・イヌ・タヌキといった動物の霊を呼び出して、いろいろと質問をしたり、誰かを呪わせたりする遊びだ。
中でもキツネの霊を降ろすのが最もメジャーだ。
とはいえ、所詮は素人による降霊術なので、狙いどおりにキツネの霊が降りてくるとは限らない。
いや、市街地にはキツネよりも圧倒的にイヌ・ネコや鳥類のほうが多いので、キツネ以外の動物の霊が降りてくるケースのほうが多い。
実際、ミカが除霊してきた動物霊のほとんどはイヌ、ネコ、カラス、ハトだった。
コックリさんが流行るのは主に小学校か中学校だ。
まれに高校でも流行る時がある。
遊ぶのは、男子よりも女子のほうが多い。
動物霊の発生ポイントを地図上にマークしていったところ、その中心に位置する地点に、県立■■高校があった。
ミカは姉に身分の偽造を依頼して、その高校で潜入捜査をすることにした。
本当は、別の目的もあったのだが。
そうして始まった、二重生活。
昼は教師として高校で働き、夜は退魔師として除霊作業に明け暮れた。
寝る間も惜しんで。
過労死寸前だ。
コックリさんを繰り返している犯人の特定は未だに進んでおらず、夜な夜な現れる動物霊たちは日に日に強くなっていく。
「くっ――臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
今日もミカは、■■高校の中庭で動物霊の群れと戦っていた。
そう、敵はもはや学校の中にも潜んでいるのだ。
霊というものは、生前の行動を繰り返す。
イヌやネコや鳥類は普通、学校の敷地内に入り込んだりしない。
なのにこれほどの数の動物霊たちが校内に出現するということは、校内の瘴気が危険域にまで上昇していることを意味する。
これ以上瘴気が濃くなってしまったら、生徒たちが取り憑かれてしまったり、取り殺されてしまいかねない。
「破ッ!」
ミカは四方八方から襲いかかってくる動物霊たちを次々と祓っていく。
だが、霊たちの数はいっこうに減らない。
いや、むしろ増えている。
「くそっ、もう霊力が……おいおい、ウソだろ」
ミカは呆然と、『ソレ』を見上げた。
動物霊たちがより合わさっていき、腕となり、脚となり、全長何十メートルもの巨人になったのだ。
――ヴォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
巨人が絶叫した。
草木が揺れ、校舎の窓がビリビリと震える。
巨人が、あまりにも巨大な拳を振り下ろしてきた!
「【防護結界】ッ!」
ミカはとっさに結界を張ったが、結界は粉々に砕かれてしまった。
「ぐあっ」
吹き飛ばされる。
キツネの面が落ちてしまったことに、ミカは気づけるだけの余裕がなかった。
(あぁ……最期に、アイツの笑顔が見たかったな)
阿ノ九多羅ミカは、疲れ果てていた。
原因は、寝不足だ。
2ヶ月ほど前から、ミカは神戸で頻発している動物霊の除霊に従事していた。
阿ノ九多羅家の退魔師たちは全国各地で発生している他案件に回しているため、この件はミカが単独で当たっていた。
数日前に四季神伍が『誰かがコックリさんでもやっているのかも』と言っていたが、ミカも同じことを疑っていた。
コックリさんは、降霊術の一種だ。
狐狗狸という字面のとおり、キツネ・イヌ・タヌキといった動物の霊を呼び出して、いろいろと質問をしたり、誰かを呪わせたりする遊びだ。
中でもキツネの霊を降ろすのが最もメジャーだ。
とはいえ、所詮は素人による降霊術なので、狙いどおりにキツネの霊が降りてくるとは限らない。
いや、市街地にはキツネよりも圧倒的にイヌ・ネコや鳥類のほうが多いので、キツネ以外の動物の霊が降りてくるケースのほうが多い。
実際、ミカが除霊してきた動物霊のほとんどはイヌ、ネコ、カラス、ハトだった。
コックリさんが流行るのは主に小学校か中学校だ。
まれに高校でも流行る時がある。
遊ぶのは、男子よりも女子のほうが多い。
動物霊の発生ポイントを地図上にマークしていったところ、その中心に位置する地点に、県立■■高校があった。
ミカは姉に身分の偽造を依頼して、その高校で潜入捜査をすることにした。
本当は、別の目的もあったのだが。
そうして始まった、二重生活。
昼は教師として高校で働き、夜は退魔師として除霊作業に明け暮れた。
寝る間も惜しんで。
過労死寸前だ。
コックリさんを繰り返している犯人の特定は未だに進んでおらず、夜な夜な現れる動物霊たちは日に日に強くなっていく。
「くっ――臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
今日もミカは、■■高校の中庭で動物霊の群れと戦っていた。
そう、敵はもはや学校の中にも潜んでいるのだ。
霊というものは、生前の行動を繰り返す。
イヌやネコや鳥類は普通、学校の敷地内に入り込んだりしない。
なのにこれほどの数の動物霊たちが校内に出現するということは、校内の瘴気が危険域にまで上昇していることを意味する。
これ以上瘴気が濃くなってしまったら、生徒たちが取り憑かれてしまったり、取り殺されてしまいかねない。
「破ッ!」
ミカは四方八方から襲いかかってくる動物霊たちを次々と祓っていく。
だが、霊たちの数はいっこうに減らない。
いや、むしろ増えている。
「くそっ、もう霊力が……おいおい、ウソだろ」
ミカは呆然と、『ソレ』を見上げた。
動物霊たちがより合わさっていき、腕となり、脚となり、全長何十メートルもの巨人になったのだ。
――ヴォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
巨人が絶叫した。
草木が揺れ、校舎の窓がビリビリと震える。
巨人が、あまりにも巨大な拳を振り下ろしてきた!
「【防護結界】ッ!」
ミカはとっさに結界を張ったが、結界は粉々に砕かれてしまった。
「ぐあっ」
吹き飛ばされる。
キツネの面が落ちてしまったことに、ミカは気づけるだけの余裕がなかった。
(あぁ……最期に、アイツの笑顔が見たかったな)



