「誰だ貴様っ、その強大な力は――……って、なんだ、四季神伍か」
墓地に入ってきたのは、例のキツネ男こと阿ノ九多羅ミカだった。
着物に袴、そしてキツネのお面といういつもの出で立ちだ。
良かった、身バレせずに済んだ。
「なんだとは何よ」
私はついつい、つっけんどんな物言いをしてしまう。
阿ノ九多羅ミカがこんな夜中にこの墓地に来たということは、間違いなく仕事中だと言うのに。
もうちょっと、労ってやるべきだったのかもしれない。
「違う違う。『安心した』と言いたかったんだ」
「どういうこと?」
「この1年半ほど、謎のスーパー退魔師が霊を狩りまくっているらしい、というウワサが退魔師界隈で流れていたんだ。どうやら人類の味方ではあるようなんだが、この阿ノ九多羅ミカをもしのぐ正体不明の退魔師が野放しになっているなんて、普通に怖いだろう?」
「うーん。まぁ確かに、巫術・呪術・真言密教術・魔術を悪用すれば、いくらでも悪いことができちゃうものね」
「そのとおりだ。【魅了】の呪術で意中の相手を籠絡したり――」
ぎくぅっ!
「【千里眼】の術で覗き見をしたり、【予知】の術を使ってギャンブルでイカサマをしたり」
「わ、私はそんなことしてないわよ!?」
「……おい。その慌てぶりは何なんだ? 本当にやってないんだろうな? やってたとしたら、俺は退魔家業に従事する者として、お前を霊害庁に突き出さなくちゃならないんだが」
ちなみに『霊害庁』とは、退魔界隈における警察庁みたいなヤツである。
「断じてやってません!」
「まぁ、そうだろうな」
阿ノ九多羅ミカが肩をすくめる。
ゆ、許された!
「信じるよ。『退魔家業は3Kだから逃げ出したい』なんて言いつつも、世のため人のために除霊に勤しんでいるお前の本質は、まごうことなき善人だ。謎のスーパー退魔師の正体がお前で、ほっとした。だから『なんだお前か』と言ったのさ」
「なるほど。……ってぇ、私、ウワサになってるの!?」
「なってないと思っていたのか? お前がさっき倒した霊物は、上級アヤカシだぞ。この俺でも全力を出さないと倒せないような相手を、ものの数秒で祓ってしまったんだ。そんなバケモノが夜な夜な街を歩き回っていて、ウワサにならないはずがないだろう」
「歩き回ってないわよ。飛び回ってるの。ってか人をバケモノ呼ばわりしないで」
「空飛ぶ人間なんて、余計ほどウワサになるわっ。人が空を飛んでいる時点で、そいつはもう十分にバケモノだよ」
「そ、それでさぁ」私は下手に出る。「阿ノ九多羅ミカエル様、このことは、できればそのぉ……」
「あぁ、分かってるよ。お前のことは秘密にしておいてやる」
「やったぜ」私はふんぞり返る。「ほら、アンタもさっさと帰りなさい。しっしっ」
「まったく。大丈夫だと分かったとたん、態度をひるがえしやがって。自分勝手な女だよなぁ、お前って」
「何よ、悪い? 自分の人生だもの。自分のために生きると決めてるの」
「本当にもったいない。お前が正体を明かせば、世界最強の退魔師として歴史に名を残すことすら可能だというのに」
「だから、そういうの興味ないんだってば」
「それに、この阿ノ九多羅ミカとの間に子供ができたら、間違いなく最強のサラブレッドが生まれるというのに」
「ねぇ、燃やされたいの?」
「あぁ、悪い悪い。俺と結婚するつもりはないんだろう? 分かってるさ」
「ずいぶんと冷静ね。以前は所構わずプロポーズ攻撃を仕掛けてきたのに」
「さすがにな。……だから、こっそり俺の頭上に特大の【火球】を生じさせるのはやめてもらえないか? 【隠密】の術式で視えないようにしているつもりだろうが、普通に熱いんだが」
「てへっ。バレてたか」
私は【火球】を消した。
冷静なコイツとなら、案外、良い関係が結べるような気がした。
もちろん、コイツの子供を生むなんて、世界が引っくり返っても嫌だけどね。
墓地に入ってきたのは、例のキツネ男こと阿ノ九多羅ミカだった。
着物に袴、そしてキツネのお面といういつもの出で立ちだ。
良かった、身バレせずに済んだ。
「なんだとは何よ」
私はついつい、つっけんどんな物言いをしてしまう。
阿ノ九多羅ミカがこんな夜中にこの墓地に来たということは、間違いなく仕事中だと言うのに。
もうちょっと、労ってやるべきだったのかもしれない。
「違う違う。『安心した』と言いたかったんだ」
「どういうこと?」
「この1年半ほど、謎のスーパー退魔師が霊を狩りまくっているらしい、というウワサが退魔師界隈で流れていたんだ。どうやら人類の味方ではあるようなんだが、この阿ノ九多羅ミカをもしのぐ正体不明の退魔師が野放しになっているなんて、普通に怖いだろう?」
「うーん。まぁ確かに、巫術・呪術・真言密教術・魔術を悪用すれば、いくらでも悪いことができちゃうものね」
「そのとおりだ。【魅了】の呪術で意中の相手を籠絡したり――」
ぎくぅっ!
「【千里眼】の術で覗き見をしたり、【予知】の術を使ってギャンブルでイカサマをしたり」
「わ、私はそんなことしてないわよ!?」
「……おい。その慌てぶりは何なんだ? 本当にやってないんだろうな? やってたとしたら、俺は退魔家業に従事する者として、お前を霊害庁に突き出さなくちゃならないんだが」
ちなみに『霊害庁』とは、退魔界隈における警察庁みたいなヤツである。
「断じてやってません!」
「まぁ、そうだろうな」
阿ノ九多羅ミカが肩をすくめる。
ゆ、許された!
「信じるよ。『退魔家業は3Kだから逃げ出したい』なんて言いつつも、世のため人のために除霊に勤しんでいるお前の本質は、まごうことなき善人だ。謎のスーパー退魔師の正体がお前で、ほっとした。だから『なんだお前か』と言ったのさ」
「なるほど。……ってぇ、私、ウワサになってるの!?」
「なってないと思っていたのか? お前がさっき倒した霊物は、上級アヤカシだぞ。この俺でも全力を出さないと倒せないような相手を、ものの数秒で祓ってしまったんだ。そんなバケモノが夜な夜な街を歩き回っていて、ウワサにならないはずがないだろう」
「歩き回ってないわよ。飛び回ってるの。ってか人をバケモノ呼ばわりしないで」
「空飛ぶ人間なんて、余計ほどウワサになるわっ。人が空を飛んでいる時点で、そいつはもう十分にバケモノだよ」
「そ、それでさぁ」私は下手に出る。「阿ノ九多羅ミカエル様、このことは、できればそのぉ……」
「あぁ、分かってるよ。お前のことは秘密にしておいてやる」
「やったぜ」私はふんぞり返る。「ほら、アンタもさっさと帰りなさい。しっしっ」
「まったく。大丈夫だと分かったとたん、態度をひるがえしやがって。自分勝手な女だよなぁ、お前って」
「何よ、悪い? 自分の人生だもの。自分のために生きると決めてるの」
「本当にもったいない。お前が正体を明かせば、世界最強の退魔師として歴史に名を残すことすら可能だというのに」
「だから、そういうの興味ないんだってば」
「それに、この阿ノ九多羅ミカとの間に子供ができたら、間違いなく最強のサラブレッドが生まれるというのに」
「ねぇ、燃やされたいの?」
「あぁ、悪い悪い。俺と結婚するつもりはないんだろう? 分かってるさ」
「ずいぶんと冷静ね。以前は所構わずプロポーズ攻撃を仕掛けてきたのに」
「さすがにな。……だから、こっそり俺の頭上に特大の【火球】を生じさせるのはやめてもらえないか? 【隠密】の術式で視えないようにしているつもりだろうが、普通に熱いんだが」
「てへっ。バレてたか」
私は【火球】を消した。
冷静なコイツとなら、案外、良い関係が結べるような気がした。
もちろん、コイツの子供を生むなんて、世界が引っくり返っても嫌だけどね。



