そうしてついに、デート当日!
 夜通し悩んだが、初デートの服はフレンチガーリーなセットアップを選んだ。
 チェック柄が可愛いミニのジャンパースカートの上に、大人な雰囲気のジャケットを羽織るやつだ。
 いやまぁ、知ったふうに言ってるけれど、実際のところは店員のお姉さんに勧められるがまま買っただけなんだけどね。

『お客さん、すっごく可愛いですね!』

『えっ、そっそうですか? えへへ……』

『どんな服をお探しですか?』

『えっと、カレとの初デート用に』

『あら素敵ですね! なら、こんなのはいかがでしょうか。ガーリーでとっても可愛いですよ』

『が、ガリ……? お寿司?』

『ではなくて、ガーリー。女の子らしいって意味です。お客さん、お人形さんみたいに顔が整ってるし腰も脚も細いから、エグいほどハマると思いますよ』

『これはさすがにフリフリすぎるっていうか……』

『では、こちらは? フレンチガーリーのセットアップです』

『ふ、フレンチ……? トースト?』

『ではなくて、ヨーロッパ、特にフランスのパリっぽい落ち着いた着こなし、という意味です』

『い、一万円!? 一着なのに!?』

『うーん。お客さん可愛いし、じゃあ初デート記念ってことで3割引しちゃう!』

『7,000円かぁ。はい、これにします』

『試着室にご案内~』

 みたいな具合で。
 我ながら、ちょろいというか何というか。

 ところでこの、フレンチガーリーのセットアップ(覚えたての単語を連呼したくなる病発動中)なんだけど、スカート丈が短いんだよね。
 膝上10センチはあって、高校の制服よりもずいぶん短い。
 だいぶ太ももがすーすーして慣れないが、これも三日月先生に喜んでもらうため、と気合を入れる。

 四季神(しきじん)家の女たちは母も姉たちもみな慎ましやかな胸をしており、それは双子の姉・巫由(ふゆ)も同じなので、私がここからないすばでーな女になれる見込みは、残念ながらゼロだ。
 だが、胸はともかく脚には自信がある。
 (さかい)様の常時発動型対物・対霊結界は物理的な攻撃や巫術・呪術・魔術・神術・真言密教術による攻撃はもちろんのこと、紫外線や乾燥からも全身を守ってくれる。
 私の太ももは常にパーフェクトすべすべモチモチ状態かつ真っ白なので、そりゃあ異性からすれば拝み甲斐があるだろう。
 実際、先生もお家デート中にチラチラと視ていたしね。
 本人は隠してるつもりみたいだけど……うふふ、可愛いなぁ。

 そんなわけで、日曜日の午前9時25分。
 JR三宮駅の改札口に、私は立っていた。
 ほどなくして、三日月先生がやって来た。

「ごめん、待ったかい?」

「ううん、今来たとこ、です」

 という定番のやり取りを行い、あこがれの実績を1個解除した。

 先生は春物のジャケットにチノパン、革靴という出で立ち。
 すごくさっぱりとしていて、嫌味がなく、それでいて洗練された服装だった。
 多分、いや間違いなく、目玉が飛び出るほど高価なブランド品で全身を固めているのだろう。
 ルイ・ヴィトンとかグッチとか?
 いや、男物だから、ええと……アルマーニ、とか?
 知らんけど。

「行こうか」

「は、はい」

 てっきり、さっそく初デート定番(?)の手繋ぎイベが始めるかと身構えていた私だったのだが、意外というか想定外というか、先生は私の手に触れてくれなかった。
 境様の肉体最適化術式によって、手汗もバッチリ押さえてきたのにな……。
 歩き出してから少しして、多少わざとらしく手の甲を先生の指先に当てたりもしてみたのだが、先生はビクリと手指を引っ込めるばかり。

「あ、あの……先生?」不安になって、私は先生を見上げた。「どうかしたのですか? 体調が芳しくない、とか……?」

 すると、先生に顔を背けられてしまった。
 私は、焦る。
 服と化粧のチョイス、ミスったか!?
 男性ウケを狙いすぎて、逆に引かれてしまったのだろうか。
 先生、脚が好きみたいだったし、限られた時間の中で最大限研究したつもりだったんだけど……。

「や、そのっ」

 内心、激焦りする私だったが、どうやら杞憂のようだった。
 三日月先生が、私を見ながら真っ赤になっていたからだ。

「……可愛すぎて」先生が、蚊の鳴くような声で言った。「いや、今日が初デートなんだから、諸々我慢するつもりだったんだよ? でも、(いつつ)さんがあまりにも可愛らしいものだから、その」

「――っ!?」

 今度は私が真っ赤になる番だった。
 つまりキッスか!?
 私にキッスしたいってことなのか!?

「けど、そういうことは、もっとちゃんと時間を重ねて、お互いを知ってからにすべきだ」顔を手で扇ぎながら、先生が言う。「少なくとも、伍さんが成人するまでは」

 なにげに重要な発言をさらりとゲットした。
 つまり先生は、私との結婚を意識してくれているってこと!?

 私は渾身の勇気を振り絞って、先生の手指に自身のそれを絡ませた。
 果たして、先生は握り返してくれた。
 恋人繋ぎだ。
 こうして私は、憧れの実績をまたひとつ解除しつつ、三日月先生とのデート本番へと足を踏み出すのだった。