彼は己の霊力で式神を従え、その姿を傍らに置いていたのだ。

白銀の毛並みを持つ獣の式神は、常に家頼の背後に控え、彼の心の在り様を映すかのように凛々しく佇んでいた。

私たちが暮らす土地には「紅蓮神社」と呼ばれる古社があり、そこには遥か昔に封じられた鬼が眠ると伝えられていた。

その名を――紅蓮鬼。

人の愛や執着を糧に荒ぶり、村を焼き尽くしたとされる恐ろしい鬼である。

家頼は、幼い頃からその社の背後に式神を置き、封印を守り続けてきた。

彼の快活な笑顔の裏に、誰にも言えぬ使命感が隠されていたことを、私はまだ知る由もなかった。

十八歳になった年、私は正式に橘家当主として、榊家の二人に仕えることとなった。

といっても、私の務めは主に紅蓮神社の掃き清めや参拝客の応対といった、巫女としての務めにすぎない。