どうやら数年前、世間で“鬼ブーム”があったらしい。

神社にも参拝客が押し寄せ、収入もすごかったのだと耳にする。

「ははは!また鬼が流行るといいな!」

冗談めかした店主の言葉に、家継がふっと眉を寄せた。

「……勘弁してください。」

困ったように吐き出されたその一言と、わずかに柔らいだ表情。

冷徹な眼差ししか知らなかった私には、その顔があまりに新鮮で、胸の奥がざわめいた。

横で家頼が豪快に笑い飛ばす。

「兄貴、真顔で言うから余計に面白いんだよ!」

にぎやかな笑い声と香ばしい匂いに包まれながら、私の心だけは静かに波打っていた。

「ところで、話って何?」

意を決して家継に尋ねると、彼はわずかに口元をゆるめただけだった。

「……また今度な。」

それ以上は語らない。

「……うん。」