「#カケルとトモの恋ぐらむ」という、僕たち“偽物カップル”のアカウントが爆誕してから数日が経った。
あの日以来、僕のスマホにもアカウントは共有され、通知が鳴りっぱなしで、なんだかずっと微弱な電流が流れているみたいにビリビリしている。というか、僕の心臓がずっとそんな感じだ。
「トモ! 見ろよこれ! フォロワーもうすぐ1万超えんぞ! やばくね!? 俺らもう立派なインフルエンサーじゃん!」
昼休み、購買で買ったメロンパンを頬張りながら、翔琉が興奮気味にスマホの画面を僕に見せつけてくる。その数字は、もはや現実味のない天文学的な数字に見えた。僕がじいちゃんのカメラで撮りためてきた写真フォルダの枚数より、遥かに多い。
ピコン、とまた新しい通知が届く。画面には、昨日僕が投稿した写真――翔琉が江の島の猫と遊んでいる写真――に、また新しいハートマークが灯っていた。
「うわ、猫の写真だけで“いいね”五千超えとか、エグいな! 俺の加工テクが神がかってるのもあるけど、やっぱトモの撮る写真はなんか違うよなー。哀愁? みたいな?」
「……別に、普通だよ」
本当は、あの猫を撮った時、少しだけ翔琉のことを考えていた。いつも、クラスのみんなに囲まれて笑っている翔琉。その輪の中にいる時とは違う、ほんの少しだけ寂しそうな横顔。あの猫と戯れている瞬間、それが見えたからシャッターを切っただけだ。
そんなこと、言えるはずもないけど。
「でさー、コメント欄がもう大変なことになってんのよ!」
翔琉はそう言うと、ぐいぐいっとスマホを僕の顔に近づけてくる。近い。翔琉の指が、僕の頬に当たりそうだ。
『次のデートはどこですか!?』
『江ノ島なら、やっぱり水族館でしょ!』
『お揃いコーデが見たいです! 絶対似合う!』
『#カケトモしか勝たん』
「だってよ! 水族館! お揃いコーデ! これ、やるしかなくね!?」
翔琉の言葉が、頭の中でぐわんぐわんと反響する。
水族館デート。お揃いの服。
それは、僕が心の奥底にしまい込んで、鍵をかけて、誰にも見つからないようにしていた、ささやかな夢だった。本物の恋人同士がする、当たり前で、キラキラしたイベント。
それを、翔琉と? “ネタ”のために?
「……僕と、翔琉が?」
「そーだよ! 俺とトモが! 今週末、行くぞ!」
決定事項みたいに、翔琉はあっけらかんと言う。
僕の本当の気持ちなんて、1ミリも知らないで。
その無邪気さが、今は何よりも残酷だった。悪気がないからこそ、その言葉の一つ一つが鋭いガラスの破片みたいに、僕の心に突き刺さる。
もし、この“カップル垢”がなかったら。
僕たちは、ただの幼馴染のまま、卒業までの時間を過ごして、きっと今よりもっと遠い存在になっていた。
でも、今は違う。
偽物でも、ヤラセでも、翔琉は僕を必要としてくれている。
「……分かった」
僕は、目の前のメロンパンの残り半分を、無理やり口に詰め込みながら、そう答えた。
週末、僕たちは“デート”をすることになった。それは、僕の本当の恋心に、静かに蓋をするための、儀式みたいなものだった。
あの日以来、僕のスマホにもアカウントは共有され、通知が鳴りっぱなしで、なんだかずっと微弱な電流が流れているみたいにビリビリしている。というか、僕の心臓がずっとそんな感じだ。
「トモ! 見ろよこれ! フォロワーもうすぐ1万超えんぞ! やばくね!? 俺らもう立派なインフルエンサーじゃん!」
昼休み、購買で買ったメロンパンを頬張りながら、翔琉が興奮気味にスマホの画面を僕に見せつけてくる。その数字は、もはや現実味のない天文学的な数字に見えた。僕がじいちゃんのカメラで撮りためてきた写真フォルダの枚数より、遥かに多い。
ピコン、とまた新しい通知が届く。画面には、昨日僕が投稿した写真――翔琉が江の島の猫と遊んでいる写真――に、また新しいハートマークが灯っていた。
「うわ、猫の写真だけで“いいね”五千超えとか、エグいな! 俺の加工テクが神がかってるのもあるけど、やっぱトモの撮る写真はなんか違うよなー。哀愁? みたいな?」
「……別に、普通だよ」
本当は、あの猫を撮った時、少しだけ翔琉のことを考えていた。いつも、クラスのみんなに囲まれて笑っている翔琉。その輪の中にいる時とは違う、ほんの少しだけ寂しそうな横顔。あの猫と戯れている瞬間、それが見えたからシャッターを切っただけだ。
そんなこと、言えるはずもないけど。
「でさー、コメント欄がもう大変なことになってんのよ!」
翔琉はそう言うと、ぐいぐいっとスマホを僕の顔に近づけてくる。近い。翔琉の指が、僕の頬に当たりそうだ。
『次のデートはどこですか!?』
『江ノ島なら、やっぱり水族館でしょ!』
『お揃いコーデが見たいです! 絶対似合う!』
『#カケトモしか勝たん』
「だってよ! 水族館! お揃いコーデ! これ、やるしかなくね!?」
翔琉の言葉が、頭の中でぐわんぐわんと反響する。
水族館デート。お揃いの服。
それは、僕が心の奥底にしまい込んで、鍵をかけて、誰にも見つからないようにしていた、ささやかな夢だった。本物の恋人同士がする、当たり前で、キラキラしたイベント。
それを、翔琉と? “ネタ”のために?
「……僕と、翔琉が?」
「そーだよ! 俺とトモが! 今週末、行くぞ!」
決定事項みたいに、翔琉はあっけらかんと言う。
僕の本当の気持ちなんて、1ミリも知らないで。
その無邪気さが、今は何よりも残酷だった。悪気がないからこそ、その言葉の一つ一つが鋭いガラスの破片みたいに、僕の心に突き刺さる。
もし、この“カップル垢”がなかったら。
僕たちは、ただの幼馴染のまま、卒業までの時間を過ごして、きっと今よりもっと遠い存在になっていた。
でも、今は違う。
偽物でも、ヤラセでも、翔琉は僕を必要としてくれている。
「……分かった」
僕は、目の前のメロンパンの残り半分を、無理やり口に詰め込みながら、そう答えた。
週末、僕たちは“デート”をすることになった。それは、僕の本当の恋心に、静かに蓋をするための、儀式みたいなものだった。
