僕たちの“偽カップル垢”、バズっちゃって終われません!

 言ってしまった。
 全部、吐き出してしまった。
 これで、終わりだ。僕たちの歪な関係も、楽しかっただけの幼馴染という関係も、全部。

 僕はぎゅっと目を瞑り、翔琉からの拒絶の言葉を待った。軽蔑されて、気持ち悪いと罵られて、それで終わり。そうなるはずだった。

 なのに。

「……ごめん」

 抱きしめられていた。
 なんで、と驚いて目を開けると、翔琉の腕が僕の体を強く、強く抱きしめていた。いつものふざけた感じじゃない、真剣な力だった。

「ごめんな、トモ。気づいてやれなくて」

 耳元で聞こえる、掠れた声。
 その時、遠くでヒュルルル、と音がして、夜空に大きな花が咲いた。ドン!という腹の底に響く轟音と共に、辺りがぱっと明るくなる。夏祭りの花火が始まったのだ。

「…なあ、トモ。本当は俺、お前と一緒にいるの純粋に楽しかったよ」

 花火の音に負けないように、翔琉が僕の耳元で叫ぶ。

「お前といると、いいねの数とかどうでも良くなる。カメラとか、スマホとか、そんなのなくても、ただ隣にいて笑ってくれるだけで、すげえ嬉しいんだ」

 翔琉の言葉が、涙でぐちゃぐちゃになった僕の心に、ゆっくりと染み込んでいく。
 そっと体を離した翔琉は、僕の濡れた頬に手を添えると、真っ直ぐに僕の目を見つめた。親指が優しく、僕の涙の跡をなぞる。

「だから、泣くなよ」

 ドン!と、ひときわ大きな花火が打ち上がる。

 夜空に咲いた光が、彼の顔を鮮やかに照らし出した。そこに映し出されたのは、僕が今まで一度も見たことのない、切なさと愛しさが入り混じったような、翔琉の表情だった。

 彼の視線が、僕の目から、そっと唇へと移される。

 時間が、止まったみたいだった。祭りの喧騒も、花火の音も、何もかもが遠くに聞こえる。
 翔琉の顔が、ゆっくりと近づいてきて、僕は思わず目を閉じた。

 唇に、柔らかいものが触れた。
 驚いて見開いた僕の瞳に、間近にある翔琉の長い睫毛が映る。

 それは、今までSNSのネタのためにしてきた、どんなスキンシップとも違っていた。
 誰かに見せるためのものじゃない。

 ただ、僕たち二人だけの、初めての“本物”のキスだった。