僕たちの“偽カップル垢”、バズっちゃって終われません!

 どれくらい、そうしていただろう。
 しゃがみこんで声を殺して泣いていると、不意に、すぐ近くでガサリと草が揺れる音がした。

「トモっ! ……よかった、こんなところにいたのか」

 息を切らした翔琉の声が、静寂を破った。
 びくりと肩を揺らして顔を上げると、そこに立っていたのは、浴衣姿の翔琉だった。祭りの喧騒から離れたこの場所では、彼の明るい髪の色が、月の光を浴びて白く光って見えた。

「みんな心配してるぞ。急にいなくなるから……」

 なんで、来てしまったんだ。僕の気持ちなんて、何一つ知らないくせに。
 慌てて涙を拭うけど、一度溢れ出したそれは、簡単には止まってくれない。

 翔琉は僕の前にしゃがみ込むと、戸惑ったように僕の顔を覗き込んだ。

「なあ、どうしたんだよ。何かあったのか? 俺、なんかしたか……?」

 その声は、いつもの軽薄さが嘘のように、真剣で、心配の色を帯びていた。

「話してくれよ、トモ」

 その優しさが、今は何よりも痛かった。分かっていないから、そんな優しい声が出せるんだ。僕のこのぐちゃぐちゃの気持ちなんて、知りもしないから。

「……翔琉には、分かんないよッ!」

 僕は、ほとんど無意識に、翔琉の肩を突き飛ばしていた。
 よろけた翔琉が、驚いて目を見開く。そんな彼を、僕は濡れた瞳で睨みつけた。

「分かるわけないだろ! 翔琉は、いつだってそうだ! 俺の気持ちなんて考えもしないで、スマホの画面ばっかり見て! いいねの数ばっかり気にして! 俺のことなんて、写真の中の飾りくらいにしか思ってないくせに!」

 もう、やめよう。
 こんな惨めな想いをするのは、もう終わりにしたい。
 この「偽物」の関係を終わらせるには、僕が僕のままでいるためには、本当のことを言うしかないんだ。
 たとえ、この手が届かないと思っていた幼馴染というポジションですら、失うことになったとしても。

 嫌われたっていい。軽蔑されたっていい。
 ただ、これだけは伝えないと、僕はもう、前に進めない。

 嫌われる覚悟で、僕は震える唇を開いた。

「好きだったんだ、ずっと」

 ひゅ、と翔琉が息を呑むのが分かった。
 夏の夜の静寂に、僕の声だけが、やけにクリアに響き渡る。

「翔琉のこと、ずっと前から、好きだったんだよ」