「そういえば最近、カケル先輩とのSNS、更新止まってますね」

 不意に投げ込まれた核心に、僕は息を呑んだ。
 どきん、と心臓が大きく跳ねて、持っていたクリームソーダのグラスを落としそうになる。

 「え、あ、それは……ちょっと、最近お互い忙しくて」

 自分でも分かるくらい、声が上ずる。しどろもどろな僕の言い訳を、歩くんは鼻で笑った。

 「はぁ、見てらんないんですけど」

 さっきまでのクールな雰囲気が一変して、今度は呆れたような、面倒くさそうな声。歩くんはテーブルに肘をつくと、僕のことをじっと見つめてきた。その瞳は、もう僕の嘘なんて全部見抜いている。

 「喧嘩したの、バレバレですよ。SNSは生き物なんです。更新が止まったら、フォロワーはすぐ気づく。『#カケトモ破局か?』って、今頃ネットは大騒ぎですよ、たぶん」
 「……破局、とかじゃない」
 「でも、このままじゃ時間の問題でしょ。で、何があったんすか? SNSであんなにラブラブだったのに」

 歩くんの言葉が、ぐさぐさと突き刺さる。
 そうだ、このままじゃダメなんだ。翔琉と、ちゃんと話さなくちゃ。でも、どうやって? なんて言えばいい?

 「……アカウントの、伸びが悪くなってて。翔琉が、焦ってたんだ」

 僕は、ぽつりぽつりと話し始めた。

 「それで、もっとインパクトのある写真撮ろうって……僕を、壁に追い詰めて……キスする寸前、みたいな写真を撮ろうって……」
 「……うわ、あの先輩、やりそー」
 「僕は、できなかった。嘘でも、そういうのは……できなくて。それで、翔琉を突き飛ばして、逃げたんだ」

 歩くんは、僕の言葉を聞いても特に驚いた様子もなく、ただ静かにパフェのスプーンを口に運んだ。そして、まるで当たり前のことを言うみたいに、ぽつりと呟いた。

 「そりゃ、できないでしょ」
 「え……?」
 「だって先輩、翔琉先輩のこと、本気で好きなんですから。嘘でキスするフリなんて、できるわけないじゃないですか」

 どくん、と心臓が大きく跳ねる。図星を突かれて、僕は言葉を失った。顔が、一気に熱くなるのが分かる。

 「……え、な、なんで……」
 「見てれば分かりますよ。先輩、翔琉先輩のこと見てる時、顔、全然違いますもん」

 歩くんは、にぃ、といたずらっぽく笑った。
 頭の中で、ぐるぐると同じことばかりが回って、答えなんて見つからない。

 僕が俯いて黙り込んでいると、歩くんはにぃ、と口の端を吊り上げた。その顔は、面白いオモチャを見つけた、いたずらっ子の顔だった。

 「なるほど……そういうことなら、あゆがプロデュースしてあげますよ!」
 「……え? プロデュースって、何を?」

 僕が呆気に取られていると、歩くんはパチン、とウインクしてみせた。その仕草は、また完璧な“可愛い女の子”に戻っていて、僕の頭はますます混乱する。

 「決まってるじゃないですか。先輩たちの恋、ですよ」

 歩くんはそう言うと、いちごパフェの最後の一口をぱくりと食べた。そして、満足そうに微笑むと、悪戯っぽく付け加えた。

 「このままじゃバッドエンド確定なんで、あゆが最高のハッピーエンドにしてあげます♡」