《後日談:凪と翡翠──書店にて》

◯後日談:ショッピングモール内にある書店の前【7ヶ月後・春先】

 隣町までデートに行った、(みどり)凪智(なち)。モール内の書店の前に、『県内出身・在住ベストセラー作家、待望の新刊!』と書かれたポップを見つける。
 一人、また一人と本を手に取って、レジに向かう。
 翠は「うわ……父さん、マジで書いたのかよ」と呟く。
 
 凪智「平積みになってますね。しかも、帯に『実話をもとにした青春BL』って書かれてますよ」

 凪智は本を手に取り、翠に見せる。
 タイトルは『(なぎ)翡翠(かわせみ)』で、表紙は凪の日の海とカワセミが描かれている。
 
 翠「うわぁ……息子をネタに小説書くって……父さん、やばくねぇか」

 嫌だという顔をしながら、口元に手を当てる翠。

 凪智「そうですか?」
 翠「お前もがっつり、ネタにされてんだよ」
 凪智「嬉しいですよ、俺は」

 さらっと言う凪智に、目を丸くする翠。

 翠「すげぇな」
 凪智「あ、でも、ミド先輩の可愛さが日本中に広まると思ったら、そこはちょっと嫌です」

 凪智は本を置いて、急に翠を後ろから抱きしめる。さも当たり前のように、翠の頭にちゅっとキスを落とす。

 翠「……お前なぁ、ここ、公共の場」
 凪智「すみません。日本中に広まる前に、俺が独占したくて」
 翠「あーもう、そんなに独占したいなら、人のいないところに行くぞ」
 凪智「はいっ」

 無事、バカップル化した凪智と翠。
 その様子を目撃してしまう、翠の親友・桐野(きりの)。彼女と歩きながらジュースを飲んでいた彼は「まじか」と言って、呆然とする。
 翠は桐野に気づくも、凪智の手を握って歩き出す。
 桐野の隣にいる彼女は、目をまんまるにして今にも叫びそう。
 ※彼女は凪智非公認の『爽やか王子ファンクラブ』会員No.5。かつ、翠にも憧れている後輩女子(理科室で箒とちりとり渡した凪智のクラスメイト)。
 
 翠(……ま、何と思われようが、止まらねぇよな。誰に見られようが、凪智はもう俺だけのもんだし)


【後日談・了】