「これが僕側でまとめていた調査書。こっちが妖怪側への被害を考慮した賠償請求額ね」
「確かに。ですが額が少々多すぎやしませんか」
「うちで保護していた妖怪たちに渡す分も入っているから。それと、こっちは無罪の僕を調査した件についての賠償請求で、こっちは……」
「…………」
蒼雪から渡される書類の数々に、凍鶴は笑顔を引きつらせた。
婦女子誘拐事件の解決から数週間後。凍鶴の執務室では、帝東の頭二人による後処理が行われていた。今回犯人が宵鴉の隊員だったため、国や宵鴉の責任も重くなり、その影響で金銭的なやりとりが多く発生しているらしい。蒼雪が何食わぬ顔で渡している書類に書かれた金額には、さすがの凜も凍鶴に同情したくなってくる。
「ああでも、賠償額が多いからって、凜の特別支給を減らすのは駄目だからね。僕を調査した任務の報酬だと聞いているし、きっちり払ってあげないと」
「心配しなくても、それはもう渡していますよ」
凍鶴は軽く咳払いをしながらそう言って、凜の方に目を向けてくる。
「弟さんは無事、異能学校に入学が決まったのでしょう?」
「はい、おかげさまで」
今回の任務の特別支給で、受験費と入学費、当面の授業料が賄えるようになったため、昌明に異能学校を受験させることができた。そして先日合格発表があり、晴れて来年の春から入学できることが決まったのだ。後は普段通り働いて金を貯めていけば、卒業までに必要な金額は十分貯まるだろう。
「まあでも、蒼雪のお陰でもあるけどね」
蒼雪は未だに凜の実家へ支援をしてくれていた。お陰で生活費に回すお金が必要なくなり、凜の給金を全て昌明につぎ込むことができたのだ。なので家の心配がなくなったのは、凍鶴と蒼雪、二人のお陰とも言える。
「なので二人とも、ありがとうございます」
「いいよ、凜はそれだけ頑張っているのだから」
「仕事をこなした人間に、相応の報酬を与えるのは当然ですからね」
妖怪頭と宵鴉東支部支部長は、気にするなとでもいうように首を振る。性格は違えど、確かにこの二人は組織の長なのだ。
「ともかく蒼雪様の請求は、中央の方に申請を出しておきます。また向こうから、連絡があるかと」
凍鶴は蒼雪からの書類を机の上で整えながら、笑みを浮かべた。
「それと凜さん。人間式の結婚式をするときは、私も呼んでくださいね」
「はい!?」
突然の話題に頓狂な声を上げてしまう。
凍鶴ははて、というように首をかしげた。
「ん、どうしたのです?」
「いえ、その……確かに本物の夫婦になる約束はしましたし、結婚式はすると思いますけど。初めの話だと、離婚調停を申し出られるのかと」
「ですがあなたは、妖怪の婚姻の儀をしているのでしょう?」
「どうして婚姻の儀の話になるんです?」
凜の問いかけに、凍鶴はさらに疑問を深くする。
「妖怪の婚姻の儀は、互いの魂を繋ぐ儀式。一度結べば特別な儀式をするか、どちらかが死ぬまで途切れることない、比翼連理の契約です。なので以前、婚姻の儀を結んだと聞いた時に、好き合う関係になったと思ったのですが……違ったのですか?」
魂を繋ぐ。死ぬまで途切れない。比翼連理。そんな話は初耳だ。
婚姻の儀は蒼雪が霊力の暴走を抑える為に行った儀式。故に結んだこと自体は怒るに怒れない。けれど魂とか、解除の仕方がほとんどないとか、そんなに重い契約なら一言断っておいてほしかった。
しかも今の話が本当なら、いわゆる人間で言う離婚をしたとしても魂は蒼雪と繋がったままになっていたということだ。もしや以前、離婚をしてもいいと発言していたのは、これが理由だったのだろうか。
凜はきっと蒼雪を睨む。彼は悪びれもせずに肩をすくめた。
「まさか凍鶴が知っているとは、誤算だったな」
「蒼雪、あなたねぇ……!」
凍鶴の話に出なければ、この先も隠しておくつもりだったのだろうか。怒りと羞恥で訳が分からなくなりながら、凜は蒼雪に迫っていく。
蒼雪はそんな凜の体に手を伸ばし、腰を抱いて引き寄せた。
「まあいいじゃない。結果的に、僕らは本物の夫婦になるって約束をしたんだからさ」
そう告げながら、蒼雪は妖しく微笑んで、凜の唇に口付ける。
宵鴉東支部の支部長室に、真っ赤になった凜の怒号が響き渡った。
「確かに。ですが額が少々多すぎやしませんか」
「うちで保護していた妖怪たちに渡す分も入っているから。それと、こっちは無罪の僕を調査した件についての賠償請求で、こっちは……」
「…………」
蒼雪から渡される書類の数々に、凍鶴は笑顔を引きつらせた。
婦女子誘拐事件の解決から数週間後。凍鶴の執務室では、帝東の頭二人による後処理が行われていた。今回犯人が宵鴉の隊員だったため、国や宵鴉の責任も重くなり、その影響で金銭的なやりとりが多く発生しているらしい。蒼雪が何食わぬ顔で渡している書類に書かれた金額には、さすがの凜も凍鶴に同情したくなってくる。
「ああでも、賠償額が多いからって、凜の特別支給を減らすのは駄目だからね。僕を調査した任務の報酬だと聞いているし、きっちり払ってあげないと」
「心配しなくても、それはもう渡していますよ」
凍鶴は軽く咳払いをしながらそう言って、凜の方に目を向けてくる。
「弟さんは無事、異能学校に入学が決まったのでしょう?」
「はい、おかげさまで」
今回の任務の特別支給で、受験費と入学費、当面の授業料が賄えるようになったため、昌明に異能学校を受験させることができた。そして先日合格発表があり、晴れて来年の春から入学できることが決まったのだ。後は普段通り働いて金を貯めていけば、卒業までに必要な金額は十分貯まるだろう。
「まあでも、蒼雪のお陰でもあるけどね」
蒼雪は未だに凜の実家へ支援をしてくれていた。お陰で生活費に回すお金が必要なくなり、凜の給金を全て昌明につぎ込むことができたのだ。なので家の心配がなくなったのは、凍鶴と蒼雪、二人のお陰とも言える。
「なので二人とも、ありがとうございます」
「いいよ、凜はそれだけ頑張っているのだから」
「仕事をこなした人間に、相応の報酬を与えるのは当然ですからね」
妖怪頭と宵鴉東支部支部長は、気にするなとでもいうように首を振る。性格は違えど、確かにこの二人は組織の長なのだ。
「ともかく蒼雪様の請求は、中央の方に申請を出しておきます。また向こうから、連絡があるかと」
凍鶴は蒼雪からの書類を机の上で整えながら、笑みを浮かべた。
「それと凜さん。人間式の結婚式をするときは、私も呼んでくださいね」
「はい!?」
突然の話題に頓狂な声を上げてしまう。
凍鶴ははて、というように首をかしげた。
「ん、どうしたのです?」
「いえ、その……確かに本物の夫婦になる約束はしましたし、結婚式はすると思いますけど。初めの話だと、離婚調停を申し出られるのかと」
「ですがあなたは、妖怪の婚姻の儀をしているのでしょう?」
「どうして婚姻の儀の話になるんです?」
凜の問いかけに、凍鶴はさらに疑問を深くする。
「妖怪の婚姻の儀は、互いの魂を繋ぐ儀式。一度結べば特別な儀式をするか、どちらかが死ぬまで途切れることない、比翼連理の契約です。なので以前、婚姻の儀を結んだと聞いた時に、好き合う関係になったと思ったのですが……違ったのですか?」
魂を繋ぐ。死ぬまで途切れない。比翼連理。そんな話は初耳だ。
婚姻の儀は蒼雪が霊力の暴走を抑える為に行った儀式。故に結んだこと自体は怒るに怒れない。けれど魂とか、解除の仕方がほとんどないとか、そんなに重い契約なら一言断っておいてほしかった。
しかも今の話が本当なら、いわゆる人間で言う離婚をしたとしても魂は蒼雪と繋がったままになっていたということだ。もしや以前、離婚をしてもいいと発言していたのは、これが理由だったのだろうか。
凜はきっと蒼雪を睨む。彼は悪びれもせずに肩をすくめた。
「まさか凍鶴が知っているとは、誤算だったな」
「蒼雪、あなたねぇ……!」
凍鶴の話に出なければ、この先も隠しておくつもりだったのだろうか。怒りと羞恥で訳が分からなくなりながら、凜は蒼雪に迫っていく。
蒼雪はそんな凜の体に手を伸ばし、腰を抱いて引き寄せた。
「まあいいじゃない。結果的に、僕らは本物の夫婦になるって約束をしたんだからさ」
そう告げながら、蒼雪は妖しく微笑んで、凜の唇に口付ける。
宵鴉東支部の支部長室に、真っ赤になった凜の怒号が響き渡った。

