凜たちが戸隠捕縛作戦に出てすぐ後、景一が不機嫌そうに口を尖らせた。
「ねえ、蒼雪様。俺たちはどうするんっすか?」
「どうしようもないでしょう。我々は留守番。そう決まっているのですから」
 瑠風がため息をつきながら、景一をたしなめる。だが景一は、納得いかなそうに頬を膨らませた。
「でも戸隠って奴には、妖怪もいっぱい苦しめられたんっすよね!? そんな奴に直接なにもできないって、悔しすぎるっすよ!」
「そうは言っても、私たちには今回の件に関して、宵鴉のような立場はないんですよ」
 瑠風の言葉に、蒼雪は天を見上げて口を開いた。
「そうだね、僕には人間を裁く権利を持っていないから」
「蒼雪様までそんなこと言うんすか!?」
 景一が牙をむき出しにして怒鳴ってくる。凜の前では隠していたようだが、彼は相当頭にきているらしい。何かと感情的な彼だが、妖怪の事を真に思ってくれているのは頼もしかった。
「まあ待って。僕は裁く権利がないと言っただけだよ」
 蒼雪は手の平で景一を制止しながら言葉を続けた。
 自分でも、何も考えていないわけではない。凜のことはもちろん信用しているが、相手は他人の力を奪って自分のものにする禁術を多用した者だ。万が一の場合の時に、凜を助けられる手段がいる。
 何しろ凜には、全てが終わった後に求婚の言葉を聞いてもらわねばならないのだ。彼女が傷つきそれどころではなくなるなんて、冗談じゃない。
「妖怪頭は人を罰することができない。けれど……正当防衛や、人命救助なら例外だ」
 どんな決まりでも穴はある。そこをつけば、大抵どんなことでもできるのだ。
「たとえば、たまたま偶然通りがかったところで宵鴉が苦戦していたら――手助けするのは許されるだろうね」
 口角を上げる蒼雪に、景一は耳と尻尾をピンと立てて目を輝かせた。
「おお~っ! 蒼雪様、頭いいっす!」
「言い出すとは思っていましたが。本当に悪知恵が働くお人ですね」
「狐は元来、そういう生き物だよ」
 苦笑いする瑠風にそう返し、蒼雪は凜たちの消えた方角を見据える。
「じゃあひとまず――高みの見物をしに行こうか」
 そして蒼雪を先頭に、三人の妖怪は悠々と夜の闇を歩んで行った。

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