「ふふ、眠ったみたいだ」
 いつの間にか腕の中で寝息を立て始めていた凜を、蒼雪はそっと寝かせて布団を掛けた。頬に残った涙の跡を拭い去り、蒼雪は微笑む。
「こうして触れられるのが、僕だけだなんてね」
 婚姻の儀で彼女の第二の異能を知り、今までの彼女の触れられる事に対する恐れに納得した。同時にその異能が自分の霊力過多を解決できると知り、喜びに震えた。妖怪と人間が共に生きる社会で妖怪の秩序が変わり、それが原因で今更生まれた問題を解消できる異能を、他でもない凜が持っていたなんて、運命以外の何物でもない。
「君の強さも、剛胆さも、その異能も。全部、僕のためにあるみたいだ」
 だからつい、想いが溢れてしまった。霊力過多の状態を解消したいだけなら、凜の異能が明らかになった時点で儀式を取りやめ、彼女に交渉すれば済む話。なのに婚姻の儀まで完成させてしまったのは、やはり凜と本当の意味で繋がりたいと願ったからだ。恐らく凜は、そこまでの想いに気付いていないだろうが。
「婦女子誘拐事件の件も、ちゃんと話を聞いてくれたし。戸隠の件だって、自分の元部下だからと変に庇ったりしなかった。やっぱり君は、頼れる宵鴉の分隊長で、僕の愛すべき人だよ」
 さらりと凜の髪を撫でる。湯浴みを終えた彼女の髪は柔らかくて心地いい。
 凜が庵を発見してくれたことで、早い段階から婦女子誘拐事件の調査に宵鴉の協力が得られた。経験豊富な凜なら、戸隠に気付かれないよう動く術を考えてくれるだろう。宵鴉とこちらの持つ情報を合わせれば、すぐに証拠は集まるはずだ。
「だから、早く事件を終わらせてしまおう。君にもう一度、本当の意味で求婚するために」
 眠る凜の額に口付けをする。
 いずれ告げる想いに、彼女が応えてくれることを祈りながら。

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