中学の友達と離れて明日から高校生活。
 それと同時に親に許可をもらい高校の近くのアパートで一人暮らしをすることに。
 親に仕送りも貰うことにもなった。

 俺の名前は坂宮聡太、普通の高校一年生だ。
 明日から聡明高校に通う。
 聡明高校は中高一貫だったが事情によりその制度はなくなった。

 
 高校入学当日、俺は入学式を済まし教室に向かった。
 俺の指定されていた席の隣の席には一人の女子が居た。
 あいさつをしないといけないと思い挨拶をした。
 「よろしくね。」と俺が言う。
 「よろしく。」と女子が返してくる。
 その時はその会話しなかった。
 
 突然教室のドアが開き担任と副担任が教室に入ってきた。
 「今日から担任になりました。田中聡一といいます。」
 「同じく今日から副担任になりました。関根和真といいます。」
 「よろしくお願いします。」
 とみんなが言った。
 
 俺は興味がなかったから挨拶を返さなかった。
 
 すると先生が「今回は初日ですし自己紹介をしましょうか」と言い出した。
 
 次々に自己紹介をしていって次は俺の隣の席の女の子の番になった。
 「私の名前は桃瀬琴音です。よろしくお願いします。」
 と自己紹介をする彼女を見た俺は少し惹かれた気がした。
 
 次に俺の自己紹介の番が回ってきた。
 「俺の名前は坂宮聡太です。よろしくお願いします。」
 と俺は自己紹介をする。
 
 自己紹介が終わって先生が言う。
 「自己紹介が終わったことですし簡単なレク的なものをやってみようと思います。」
 と先生が言ってレクをすることになった。

 仲良くするためにドッチボールをすることになった。
 チームは男子vs女子のチームになった。
 体育館に移動した俺らはコートを決めた。
 前のコートが女子のチーム後ろのコートが男子のチームのコートになった。
 男子三人が外野に周った女子も同じく女子三人が外野に周って構成された。

 お構いなく当てていく男子に俺は「やり過ぎ」と注意した。
 その瞬間注意した男子が逆ギレをしてこういった。
 「別に良いだろ。ドッチボールなんだから。」
 
 俺はこう返した。
 「それでもやりすぎだ。」
 といった瞬間、その男子がその場から逃げてしまう。

 男子に当てられていた女子に俺は「ありがとう。」
 とお礼を言われた。
 
 その女子は俺の隣の席の女子だった。
 その日から俺の片思いが始まった。

 次の日から、俺はその子に話しかけることを決めた。
 まず名前を聞くことにした。
 「よろしくね?俺は坂宮聡太。聡太って呼んで。これから仲良くしたいと思う、よろしく。」

 「あ、ああ、よろしくです。あの、昨日の見ちゃったんですけど、注意しているところ、かっこよかったです。」
 
「え、ありがとう。あのさ、友だちになるんだし、タメ口で行こうよ。」
 
「良いんですか?」
 
「良いって言ってんじゃん。」
 
「あ、わ、わかった。」
 
「良し!ありがとう!これからよろしく!」
 
「ああ、よろしくおね...よろしく。」
 
 こうして俺らの最初の友達としての関係が始まった。
 
 「そういえば名前なんて言うの?」
 
 「私の名前は桃瀬琴音。琴音って呼んでよ。」
 
 「じゃあ琴音って言うね。」

 「今日の昼さ、一緒に食べない?」

 「えっ、良いの?!」
 
 「うん...。」

 「やった!」

 「うん。」
 
 「ありがとね、誘ってくれて。」
 
 「いや、全然。」
 
 「もっと仲良くしようね!」

 「あ、そうだね...。」
 
 俺が食べながら琴音の方を見ていると、琴音の弁当は、美味しそうでとても良い弁当だということに気づく。
 
 「それ、美味しそ!」
 
 「でしょ、自作。」

 「食べてみたい!」
 
 「え、あ、うん。いいよ。」
 
 パクッ。

 「美味しいいい!」
 
 「ほんと?嬉しい笑」
 
 「ていうかさ、仲良くなって初日でこんな事言いの?」
 
 「なんで〜逆に駄目?」
 
 「そういうわけではないんだけど、まあ、ありがとね。マジで美味しかった。」
 
 「うん!」

 二人は数分掛けて食べ終わり、教室に行き、それぞれの机に戻った。


 「琴音ってさ、普段何してる?」
 
 「大体暇してる。でも音楽聞くの好きかなー。」
 
 「へぇ!名前に琴と音が入ってるもんね!」
 
 「確かに!」

 「いい名前!」
 
 「ありがとう!」
 
 急に琴音が恥ずかしそうな顔をする。
 
 「どうした?」
 
 「いや、あの......聡太...って呼んでいいですか?」
 
 (カワイイ!特に敬語に戻っちゃってるとこ!俺、この子好きになっちゃったのか?)
 
 「あ、あの。」
 
 「あ、うん!良いよ?全然いいよ?!」
 
 「あ、うん、よかった!」
 
 「これからよろしく!」
 
 「うん!よろしく聡太!」

 前よろしくと言ったときより、琴音が元気に感じた。
 
 「次の土曜日祭りあるから一緒に行かない?」

 「え、いいの?私でよかったらいいよ!」

 「やった!じゃあ土曜日、鳥居で集合しよ。」

 「わかった!土曜日、鳥居ね!」

                         ――土曜日――
 
 (まだかなー)
 
 待っていると琴音が浴衣姿で走って来た。

 「聡太〜待った?」

 「待ってないよ。いま来たし!」
 
 「それホント?笑」

 「ホントだよ。笑じゃあ行く?」

 「うん!行こ!」

 「花火あるみたいだしかき氷食べながら見る?」

 「いいの?でも私がかき氷買うよ!」

 「いいよ!俺が2個買ってあげる!」

 「だめだよ〜友達だからってそこまでしなくていいって〜」

 「まぁ借りができたってことで」
 と言いかき氷を買う。

 「まぁありがと!花火見よ!」

                        ――花火が始まる――
 
 「花火綺麗だな〜。」
 
 「そうだね〜また来られたらいいな〜。」
 
 「来年も行こうよ。祭り」

 「うん!行こ!来年も!」
 
                    ――花火が終わって祭りも終わる――
 
 「楽しかったね!行こうねまた来年も!」

 「うん!また来年も行こ!」
 
                      ――祭りが終わった次の日――

 (どうしよう。暇だな。)
 
 (俺はそう思いながらソファでくつろいでいた)
 
 (ソファでくつろいでいると家のインターホンが鳴った。)

 「はーい」

 (そう言って玄関を開けると琴音が立っていた。)
 
 「この前のお礼にどこか行かない?」
 
 (と琴音が言って来た。)
 
 「ちょうど暇だったから家で決めない?」

 (と俺が琴音に言う。)

 「良いの?じゃあお邪魔しようかな!」

 「お邪魔しまーす。」

 「はーい。二階に行って左行けば俺の部屋あるから先行ってて〜。」

 「はーい」

                      ――聡太視点――

 (台所についたときに気付いてしまった。俺が女子を家に入れていることに。)
 
 (やばい、心臓がドクドク言ってる。こんなこと今までなかったのに。)
 
 (とりあえずお茶を持っていこう。)

                       ――琴音視点――

 (すごく暇で聡太の家に来ちゃったし、部屋に入っちゃった。)
 
 (やばい、めっちゃ心臓ドクドク言ってるし、緊張してきた。)

 (二階に上がって自分の部屋に入る。)

 「お、お茶持ってきたよ。」

 「あ、ありがとう。」

 「どこ行きたいとかあるの?」

 「んー私は県内に遊びに行きたいんだよね〜」

 「県内かー県内っていってもどこに行きたいとかあるの?」

                       ――琴音の心の声――
 
 (こんなに近くに異性の男子がいるって思うとドキドキしちゃう...)
 (2人で遊ぶ場所を提案してみようかな...)

 「じゃあ2人で遊ぶ場所が良いな!」

                       ――琴音の心の声――
 
 (言っちゃったー!!でも言ってしまったことは仕方ないよね...!)

                       ――聡太の心の声――
 
 (え〜!!ふ、2人で遊ぶ場所!?提案してくれたのはありがたいけど、さっきよりすごいドクドクしちゃってるんだけど!?)

 「どうかな?」

 「い、いいよ!どこが良い?」

 
 (念入りに話し合った結果、遊園地に行くことになった。)

 「こんなに話し合ってたらもう夕方か〜。」

 「そろそろ私帰るね!」

 「分かった。気おつけて帰ってね!」
 
                         ――翌朝――
 
 「よく寝た〜」

 (家を出て学校に行く。)

 「やっと着いた。」

                      ――教室のドアを開ける――

 「おはよう。」

 (クラスメイト達もおはよう。と返す。)

 「琴音おはよう。」

 「おはよう。聡太。」
 
 (友達が言う。)

 「最近、桃瀬と聡太仲良くね?」

 「そう?」

 「仲いいだろ。弁当も一緒に食べてるし。」

 「てゆうか桃瀬」

 「ん?何?」

 「今俺と後二人でカラオケ行くんだけど行かね?」

 「ごめんけど琴音と遊園地行くから。」

 (琴音の友達が言う。)

 「最近坂宮くんと仲いいよね。」

 「そ、そう?」
 
 「そうだよ!最近弁当も一緒に食べてるし。」
 
 「ま、まぁ。」
 
 「私さ2人の友達と家で映画見るんだけど来ない?」
 
 「ごめん、私、聡太と遊園地行くんだ。」
 
 (琴音の友達が言う)

 「そっか〜...また今度映画見よ!」

 「うん!また今度ね!」

 (聡太の友達が言う。)

 「まぁいいや友達とカラオケ言ってくるわ。」

 「ごめんな。またいつか行こうな。」

 (先生が入ってきて言う。)

 「はーい朝の朝礼やるぞ〜。」

 「最初にこのクラスに転校生が来ます。」

 (クラスのみんながザワザワしだす。)

 「入ってきてください。」

 (ガラガラと教室のドアを開ける音がする。)

 (転校生が自己紹介をしだす。)

 「皆さんはじめまして。今日からこのクラスに転入する神谷慎也です。よろしくおねがいします。」

 (自己紹介を終えた瞬間、ザワザワが大きくなる。)

 (クラスの女子達がイケメンじゃない?とかスポーツできそう!とか言っているのが聞こえる。)

 (先生が言う。)
 
 「神谷は神ノ原興産(かみのはらこうさん)って王手会社で息子だそうだ。中学ではバスケ部だったそうだ!今も入部を考えているらしいから興味のあるやつは声掛けてやれ!」

 (周りを見るとクラスの女子は目をキラキラと輝いていた。聡太は琴音の方を見ると琴音も目を丸くして神谷をじっと見つめていた。)

 (小声で)「これはまずいことになったぞ。」
 
 (先生が転校生に言う。)

 (んじゃあ、神谷の席は...坂宮の後ろな!と指示をする)

 (神谷が言う。)

 「よろしくね。坂宮くん。」

 (神谷慎也は笑顔で俺に声を掛けてきた。)

 「...よ、よろしく。」

                        ――聡太の心の声――

 (この転校生すごい話を掛けてくるな。)
 
 [休み時間になるとクラスのみんなが次々と神谷の机を囲んだ]
 
 (バスケ部の男子が「バスケ部入ろ」とか「どこから来たの?」とか「王手会社の息子なのすごいじゃん!!」とあっという間に人だかり、そしてその人だかりに琴音の姿があった。)

 「え、神谷くんってバスケしてたんだね!」


 「いやいや、別にそんなことないよ。」

 「親がバスケを見た影響でやれって言うからやってみただけだよ。」

                         ――お昼休憩――

 「へーそうなんだ」とゆう女子が後を絶たない。

                        ――聡太の心の声――
 
 (うわぁ弁当の時間にでも転校生にすごい集まってるな...)

 (屋上で食べるか。)

 [そう思った俺は屋上に向かった。]

                        ――琴音の心の声――

 (あ、聡太屋上で弁当食べるのか。私も行こうかな。)

 「桃瀬さんどこ行くの?」

 「ちょっと屋上に。」

 「どうして?ここで弁当を食べればいいのに。」

 「神谷くんの前の席の子と食べるっていつも決まってるから。ごめんね。」

 [そう言って琴音は教室を出て屋上に向かった。]

 ――転校生・神谷慎也の心の声――

(僕の前の席って坂宮聡太って子だっけ。)
 
 (今日この学校に来てやっと好きだと思える人ができた。桃瀬琴音だ。絶対に好きにしてみせる。)

                         [屋上]

 [屋上のドアが開いた。]

 [屋上のドアが開き琴音が弁当を持って俺のいるところに来る] 
 「琴音じゃん。教室に居なくていいの?」
 [と俺が聞くと琴音が言う。]
 「いいよ。なんか居心地悪かったし。」
 [俺が琴音に言う。]
 「俺は別に一人でもいいけどね。今まで一人だったし。」
 [そのことを聞いた琴音が言う。]
 「そんなことないよ。私も居たほうが楽しいでしょ。」
 [と言いながら微笑む琴音を見た俺は少し心がドキッとした感じがした。]
 
 [弁当を食べ終わった俺らは教室に行った。]

 [教室のドアを開け自分の席に座る]

                     ――聡太の心の声―― 

 (あとは1限授業すれば帰れるのか、頑張ろ。)

 [5限目が終わり帰る支度をする]
 
 「ふぅ...やっと帰れる。」
 
 (ちょっといい?と学級委員の藤村 楓が声を掛けてきた。)

 「何?」

 「転校生のことどう思ってるの?」

 「どう思ってるか?いや、普通だけど」

 「ふーん。そっか。」

 「なんだよ。」

 「なんもないよ。聞いただけ。」

                       ――家に帰宅後――

 (風呂に入って考えることにした。)

 「ふぅ...一体なんだったんだ?」

 「あ〜...考えたら寝れなくなっちまう。」

 (風呂から上がったスマホに通知が届いていることに気づく。)

 「ん?なんの通知だ?」

 「グリープLINEの招待通知か。」

 「名前が転校生のことどう思ってる?って名前か。」

 (俺は不思議に思いながらもLINEグループ入る。)

 (LINEグループは琴音の他に10人程度LINEグループに入っていたが転校生の神谷慎也は当然ながら居なかった。)

 (LINEグループに居る数人が神谷について話していた。)

 (誰が作ったのかLINEグループの情報を見てみた。)

 (すると、放課後に声を掛けてきた藤村 楓が作っていたことが分かった。)

 「グループを作ったのは学級委員の藤村さんか...」

 (俺は招待した理由を聞くためメッセージを送った。)

 {藤村さんなんで俺を招待したんだ?}

 {今日聞いた人に招待を送っただけだよ。}

 {そうなんだ。}

 {うん。}

 (なるほど。今日転校生のことどう思ってるの?って聞いた人の構成か...)

 (俺がスマホを置こうとしたそのとき、藤村からもう一通メッセージが届いた。)

{坂宮くんって、琴音と仲いいよね?}

(...は?)

{ただの興味でずっと学校で見てるだけなんだけど、転校生の神谷慎也に気をつけたほうがいいかも。}

(その意味をまだ俺は理解できなかった。)

(俺はスマホを置いて、ベッドに倒れ込んだ。)

(少し疲れた。というか、いろんなことが一気に起こりすぎだ。)

(転校生が来たり、LINEグループに招待されたり、色々ありすぎだな。)

                   ――そんなことをぼんやり考えていた時——

[ピコン]

スマホに通知が来た。

画面を見ると、琴音からのLINEだった。

{今日、なんか聡太元気なかった?屋上の時も。}

{私でよければ、話聞くよ。}

 (あー気づかれてたか。)

{大丈夫だよ。ちょっと考えごとしてただけ。ありがとう。}

(少し迷ってから、もう一通送る。)

{明日のお昼も、一緒に食べよ。}

(すぐに返信が来た。)

{うん。楽しみにしてる!}

(スマホを胸の上に置いて目を閉じてなんか少しだけ救われた気がした。)

                          ――翌朝――

(先生が教室に入ってきてこう言った。)

「また転校生が来ます。どうぞ。」

「皆さん。始めまして。天音 梨央って言います。よろしくお願いします。」

(また新たに来た転校生に数人の男子や女子がざわついた。)

(先生がざわつきをなだめてこう言う。)

(席は桃瀬と代わり天音の席にすると言う。)

(その言葉に生徒の声がザワザワしだした。)

(なぜ変えるのか。とか違う席にすればいいじゃないか。とか批判の声が殺到しだした。)

(席が批判のあるまま変わって座ってきた転校生。)

「よろしくね。名前は?」

「坂宮聡太...」

「坂宮くんか。よろしく。私は天音梨央。梨央って呼んで。」

「う、うん」

(ふと、視線が向けられていることに気付いた俺はその方向に目をやった。)

(俺を見ていたのは藤村 楓と琴音だった。)

「ん?何?」

「いや、なんでも。」

「そういえば聡太くんは好きな人居るの?」

(その質問をした瞬間教室が静まり返った。)

「好きな人?居ないかな。」

(その言葉を聞いたクラスメイトは何事もなかったかのように喋り始めた。)

[ピコン]

(スマホが鳴った。見てみると転校生のことどう思ってる?のLINEグループの通知だった)

{今の聞いた?聡太くんの回答}

{聞いた!居ない。だって}

{ありえね〜}

(批判や驚いているやり取りがされていた)

                       
(スマホが鳴った。見てみると転校生のことどう思ってる?のLINEグループの通知だった)

{今の聞いた?聡太くんの回答}

{聞いた!居ない。だって}

{ありえね〜}

(批判や驚いているやり取りがされていた)

                          ―昼休み――

(俺が弁当を持って席を立った瞬間、ちょっといい?と梨央に呼ばれた。)

「何?」

「弁当一緒に食べない?」

「別にいいけど俺は屋上で食べるよ。」

「いいよ。一緒に食べようよ。」

「まぁ、良いけど。」

(雑談をしながら弁当を食べ終わった後教室に戻った)

5時限目、教室に先生が入ってきた。

「はい。来月の文化祭のクラス企画、決めていきます」

(その一言で教室がざわつく。)

(俺は文化祭とか正直あんまり興味なかったけど、このクラスで初めての大きなイベントになると思うと、ちょっと気が引き締まる気がするな。)

「企画は『クラス演劇』で決まっているので。配役とスタッフのペア、今からクジ引きで決めます。」

(その瞬間、教室内に緊張とざわつきが大きくなった。)

「ペアは男女で組む形にします。」

(紙の入った箱が回ってくる。俺は手を入れて、一枚を引いた。)

【その紙には演出担当:坂宮聡太・天音梨央】

【もう一組の紙には主演:神谷慎也・桃瀬琴音】

(引いた人が次々に名前を読み上げられていく中、ざわつくクラス)

「主演が神谷くんと桃瀬さん!?」

「マジかよ、美男美女じゃん。」

「こっちは演出ペア、坂宮くんと天音さんだって。」

(俺は梨央の方を見ると、ニコッと嬉しそうに微笑んでいた。)


(琴音と目が合った。けど、すぐにそらされた。)

                       ――放課後の教室――

「じゃあ、演出担当は今日は打ち合わせしていってね。主演の二人も、あとで合流していいぞ~。」

(先生の声でみんな動き始め、教室に残る俺と梨央)

「えっと、資料はある分は持ってきた。」

「ありがとう。助かる。」

(机をくっつけて、二人でプリントを見ながら話し始める)

「この脚本、割とセリフ多いね。演出も構成も工夫しないと。」

「そうだね。でも、それって逆に、演出の腕の見せどころだと思う。」

(梨央はプリントを見ながら、まっすぐな目でそう言った)

「……そうかも。でも」

(梨央が、少しだけ笑った)

「こうやって一緒にやってると、ちょっと楽しいと思ってる。」

「俺も。なんか、やりがい感じてきたかも。」

「良かった。」

(そう言って、梨央は笑った。目が合って、ちょっとだけ俺はドキッとした。)

(その瞬間、教室の扉が、静かに開く音がした)

「あっ」

(そこに立っていたのは琴音だった)

「琴音?どうかした?」

「あ、ううん、ごめん。忘れ物、取りに来ただけ。」

(ちらりと机を見て、梨央と向かい合って話している俺たちを見て)

「じゃあ、また。」

(そそくさと教室を出ていった)

(校門前、神谷慎也が琴音に声をかける)

「桃瀬さん」

「ん?」

「帰り、少しだけ話せない?」

「あ、うん」

(並んで歩き始めるふたり)

「さっき、教室にいたよね。坂宮くんと天音さんのところ」

「うん、忘れ物があって」

「あのさ、 俺、桃瀬さんのこと、初めて見たときからずっと気になってた。」

「....」

「今は、坂宮のことが好きなんだろ? でも、あいつは最近、天音さんと仲がいいよな。」

「うん、でも、そういうのはまだ分からないし...」

「分かるよ。俺も、こう見えて真剣に好きなんだ。桃瀬さんのこと。」

(立ち止まって、琴音の目をまっすぐ見る神谷)

「もし俺にチャンスがあるなら、ちゃんと向き合って欲しい。今度、二人で出かけよう?文化祭の準備も大変だろうし、ちょっと息抜きにでも。」

「え、でも...」

「お願い。後悔したくないから。」

「……少し、考えさせて。」

                   ――放課後・体育館の特設ステージ――

演劇の練習が始まった。

主演の神谷と琴音、演出の俺と梨央、そしてクラスメイト達が集まり、シーンごとに動きの確認をしていく。

「じゃあこのシーン、琴音が神谷に向かってセリフ言うところからで。」

「……うん、わかった。」

(琴音は気まずそうに聡太と一瞬目が合ったあと、すぐ神谷の方に向き直る)

神谷は堂々と台詞を言い、距離を詰めてくる。

(演技とはいえ、近すぎるその距離に、心がざわついた。)

「(私、こんなに近づかれても何も感じないんだ)」

俺は舞台の下から見守りながら、演出メモをとっていた。

その横顔に、琴音の目が吸い寄せられる。

(演技してるだけのはずなのに、なんで、聡太の方ばかり見ちゃうの?)

                     ――その頃、演出席の隣。――

 梨央もまた、視線をそっと聡太に向ける。

「ねぇ聡太、あの演出ちょっとだけ変えてみない?」

「いいね、それ。じゃあ、次の練習で試してみよう。」

 笑い合う二人の姿に、琴音の胸がチクリと痛んだ。

(やっぱり私、好きになってるんだ。)

                     ――次の日、練習の合間に——

 私が、ふと聡太に尋ねる。

「最近、琴音ちゃんと話さないの?」

「うーん、タイミングが合わないっていうか、避けられてる感じするし。」

「そっか。」

(そっかじゃないよ、私なんで今、ちょっと嬉しくなってるの?)

(私は罪悪感を抱えながらも、心の中で少しずつ聡太への想いを認め始めていた。)

                     ――1ヶ月後のステージ本番当日――

「じゃあ、いってこい!主役ペア!」

先生の背中を押され、神谷と琴音が舞台に立つ。

照明が落ち、音楽が流れ、幕が上がる。

客席から注がれる視線。

緊張しながらも、琴音の目が聡太を探していた。

(見てくれてる、よかった...)

神谷とのクライマックスシーン。

神谷が、琴音の手を取る。

「愛している。どんな運命だって、君となら乗り越えられる。」

琴音もセリフを返す。でも、その声はどこか遠かった。

(神谷くんじゃない。本当に心が反応するのはこの人じゃない。)

                      ――演劇は大成功に終わった――

観客から拍手が沸き、カーテンコールを終えたクラスは歓声に包まれる。

学校を出た帰り道、舞台の裏手。

神谷が琴音を呼び止めた。

「桃瀬さん。俺、本気で好きなんだ。今日の演技、楽しかったけど、それだけじゃ足りない。恋愛として、ちゃんと向き合ってほしい。」

琴音は少し黙ってから、顔を上げる。

「ごめん、神谷くん。気持ちは嬉しいけど、私は他に、好きな人がいるの。」

神谷は笑顔のまま、ゆっくりうなずいた。

「そっか。ありがとう、正直に言ってくれて。」

 その夜、私はスマホを握りしめ、LINEを送った。

[今から、少し会えない?]と聡太に送ると返信が届いた。

[良いよ。]

「琴音?どうしたの、こんな時間に。」

「演劇楽しかった。でも、ずっと言えなかったこと、言うね。」

「?」

「私、聡太のことが好き。」

「え?」

「助けてもらった時から...ずっと。」

聡太が答えようと口を開いた、その瞬間。

「ちょっと、いいかな?」

後ろから声がした。

振り返ると、そこには梨央が立っていた。

「私も...聡太のことが好き。演出を一緒にやって、何気ない会話が楽しくて、気付いたら、目で追ってた。」

「!」

琴音も、静かに梨央を見て言う。

「そっか。ライバルだね。」

「そうだね...でも、ちゃんと伝えたくて。」

(2人と別れて、家に帰り2人にLINEを送る)

{2人とも、大切な友達で、どちらかを選ぶって簡単に言えることじゃない。少し時間が欲しい。}
{ちゃんと、自分の気持ちに向き合って答えを出したい。ごめん...。}

                       ――梨央の心の声――

(スマホを持ったまま、私の手は少し震えていた。)
(ずるいよ、それ...待ってるから、なんて言えないよ...)


 [琴音からの返信]
{分かった。時間、ちゃんと使って。}
{私はもう逃げないって決めたから。待ってる。}

                     ――人気のない放課後の廊下――

「ねえ、神谷くん。私さ、あの人に会うためにこっちに来たの」

「どういう意味だ」

「中学のとき、聡太くんに告白したの。フラれたけど、忘れられなくて。転校してくって聞いたとき、すぐ親に頼んだの。[私も行きたい]って」

「それ、ただの執着じゃないのか」

「そうかもね。でも、私の中ではずっと...本気だった。」

(楓が少しだけ声を落とし、目を伏せる)

「でもさ...梨央も琴音も、何もしなくても男子とか聡太くん選ばれる側なんだよ」

「...」

「琴音なんて、登校初日から目立ってたし勝ち気で強くて、梨央は静かで優しくて守りたくなるって感じ?知らないけどさ...」

「でも、私は? 私は頑張ってちゃんと見てもらおうってしてるのに。それでも、あの2人なんだよ。あの2人に、全部持っていかれる」

「私の頑張りも我慢も努力も無視して...」

「...」

「ねえ、神谷くん。私、間違ってる? ちゃんと努力してきたのに、こんなのズルいよね...?」


(昼休み、クラスメイトや他の生徒が学食や購買に出ていて、教室内は少し静か。梨央・琴音・聡太の3人だけが残っている)


「購買行くタイミング逃したね〜。パン、絶対売り切れてるよ」

「うん。でも、今日はこのままここでいいかな...。」

「なんか弁当でも食べるか」

(そこへ、勢いよく教室の扉が開く)

[バンッ]

「やっぱり。いたんだ」

(3人が驚いて振り返る)

「楓?」

「どうしたの、そんな顔して」

(ゆっくり近づきながら)

「昼休みって、好きな人と過ごす時間でしょ? 3人で、何話してたの?」

(眉をひそめながら)「楓は何が言いたいの?」


「なんで!? なんで、あんた達なの! 私、ちゃんと努力してきたんだよ!可愛く見えるように、話し方も、服も、表情も、全部...!」

「楓ちゃん...」

「中学のとき、聡太くんに告白したの。でも振られた。転校してくって聞いて...聡太くんを追いかけたの! 親に頼んで!
やっと同じ学校に来れたのに…!」

「それで?私達が邪魔ってこと?」

「邪魔っていうか...なんでいつも、あんた達が選ばれるの! 何もしなくても、目立ってて特別で...私だって、見てもらいたかっただけなのに...!」

「楓...そんな風に思ってたなんて...」

「知らなかったで済ませないで。私、もう限界なの。好きって言ったの、私が先だった。ずっと、私の中には聡太くんがいたの...なのにどうして、梨央ちゃんと琴音なの?」

「私のこと、誰も見てくれない...」

(梨央が静かに立ち上がる)

「楓ちゃん。それでも、ちゃんと想ってたの伝わったよ。でも、誰かを想うことに順番はないんだよ...」

(楓がゆっくり梨央に目を向ける)

「あんたが努力してきたことは私にも分かってた。でも、それで人の気持ちを責めても何も変わらない。」

「言わないで...正論とか、優しさとか、今は、もう聞きたくない...」

[バタンッ]

(夜。カーテンの閉まった部屋。机に置かれたスマホがぼんやりと光っている)

(スマホの画面には、新しく作成中のアカウント名)

[@truth_lies_r]

(手元の指が震えながらも迷いなく文字を打ち続けていく。)

                         ――楓の心の声――


「誰も私のこと、ちゃんと見てくれない。笑って、明るくしても....あの2人には敵わない」

(スマホに登録されたアカウントのプロフィール欄に文字を入力する。)

[真実だけが、すべてを壊す。]

(画面をスクロールして、「投稿」ボタンに指をかける。)

                         ――楓の心の声――

「言葉ひとつで、人は簡単に崩れる。私はただ...私だけが傷つく世界を、終わらせたいだけ...」

(指がタップする。1件目の投稿がアップされる)

[@truth_lies_r]の投稿(匿名)

「優等生って、裏ではああいうことしてるんだって。いつまでバレないつもりなのかな? #正義の皮をかぶった偽善者」

(楓はスマホを伏せ、部屋の闇に沈む)

(目だけが、静かに光っていた)

「壊れるのを、待ってて。順番なんて関係ない。私が先だった...それだけは、事実なんだから」

(翌朝。教室。いつもと変わらぬはずの朝――でも、どこか空気が重い)

(教室の奥、数人の女子グループがスマホを見せ合っている)

{ねえ、これ見た? 新しくできた裏垢っぽいんだけど}

{なんか、学校の誰かのこと書いてるよね...}

{優等生の裏の顔って、天音さんと桃瀬さんのこと? }

(ちらっと梨央と琴音に視線が向く)

(梨央は自分の席に座って静かに読書しているが、視線に気づき少し眉をひそめる)

(琴音が隣の席から小声で)

「梨央大丈夫? なんか、変な空気」

「うん、なんか、私達見られてる気がする」

[ガラッ]

(楓が入ってくる。昨日とは打って変わって、無表情で教室を見渡す)

                          ――楓の心の声――

「気づいてない...まだ、バレてない...」

(この程度で少しざわつくなら、本当の顔を暴いたらどうなるんだろうね、梨央ちゃん...)

(神谷も教室に入ってきて、教室の空気に違和感を感じる)

「なんか、あったのか?」

(数人の生徒がスマホ画面を見せながら神谷に寄ってくる)

{これ、神谷くんも見た? ちょっとヤバくない?}

{正義の皮をかぶった偽善者とか書いてるけど...これ、天音さんと桃瀬さんじゃね?}

(神谷が画面を覗き込み、アカウント名を目にする)

[@truth_lies_r]

(神谷の表情が一瞬だけ曇る)

                         ――神谷の心の声――

(この文体の書き方...どこかで見たことある気が...妙に感情の起伏が細かい....これ、まさか...)

(視線の先には、席に座る楓。静かにスマホを伏せた手が、わずかに震えているのに気付く)

[@truth_lies_r]の投稿(匿名)2回目の投稿

[完璧な子って、自分を隠すのが上手いだけ。本当に優しい子なら人を傷つけたりしないよね。本当にそう思ってるならね。#偽善の裏]

[@truth_lies_r]の投稿(匿名)3回目の投稿

「なんでいつも人気な子たちって、目立つんだろ。本当に純粋なら、好きな人ひとりに決めればいいんじゃん#友情の裏側」

{また投稿来てる...誰なんだろう...とクラスがざわめき始める。}

                          ――聡太の心の声――

「もう、やめてくれよ。ここまできたらいじめじゃなくて仕掛けだろ。)

(声を張り上げず、だけど確かな声で)

「やめよう、こういう話。誰かのことを傷つけるだけだ。」

(彼の真剣な眼差しに反応し、数人がざわつきを止める)

[@truth_lies_r]の投稿(匿名)4回目の投稿

「静かな子や何もしてなくても目立つ子には秘密がある。本当の姿、知ったら怖くなるよ? #嘘の裏」

(あちこちでざわめきが再燃)

(琴音が立ち上がり、声を震わせながら)

「いい加減にしてよ...! 私や梨央みたいな目立つタイプにしか嫉妬できないの?」

(聡太もすかさず言う。)

「琴音の言う通りだ。そういう投稿をする意味もざわざわして琴音や梨央をチラチラ見るが意味がわからない」

(教室のみんなが黙り込む。言葉にならない空気が流れる)

                        ――楓の心の声――

(庇われてる...? 才能もルックスも、全部持ってるあんたたちが、守られる側なの?)

(私の頑張りも耐えも、全部無視されて、あんたたちがかわいいって、勝手すぎる...!)

                         ――昼休み――

教室に入った梨央と琴音が感じたのは、空気の違和感だった。

ざわつき。ヒソヒソ声。目が合っては逸らされる視線。

「ねえ、なんか...今日、変じゃない?」

「うん。みんな、見てる」

(机の上には、匿名メッセージが一枚置かれていた)

「どっちも待ってるとか、バカみたい。選ばれると思ってる時点で、自意識過剰だよ。」

「ふざけないで...一体誰が....」

「やめろよ。こんなの...」

「誰が書いたか知らないけど、ふざけるなって言ってんだ。」

(教室の誰もが黙る)

「2人が何を選んだとしても、笑われたり、見下されたりする理由なんてないはずだ。これは俺の問題だ。俺が返事を遅らせたせいで、こんな空気にした。」

「ごめん。でももう、2人に変な目を向けるな」

                      ――楓の心の声――

(なんで...?なんで、あの2人のことはあんなふうに庇うの...?)

(私がどれだけ苦しんで、頑張って、追いかけてきたかなんて知らないくせに...!)

(結局、守られるのはあの子達なんだ...)

(なんで...私は...)

                    ――昼休み、教室の真ん中で――

教室は、通常の昼休みの空気とはほど遠かった。

ざわついたクラスメイト、スマホをちらちら見る目線。

そこに、楓がゆっくり教室に戻ってきた。

                        ――楓の心の声――

(誰かに守られてるだけの彼女たちが、また笑われずに済むなんて...ずるい。)

 誰も声をかけられないまま、楓は大きく息を吸って叫んだ。 

「いい加減にしてよ!! ずっと好きだったんだよ、私は! 聡太くん、ずっと…!」

彼女は思い切り髪をかき上げ、泣きながらも言葉を続けた。

「中学のときに告白して、フラれて。転校してまで、追いかけてきて...なのに、あんたはあの子たちばかり見て...!」

(そこへ神谷が静かな口調で詰め寄る)

「楓、お前がやってること、全部バレてるんだぞ。」

(楓が反論しようとしたところに、さらに神谷が続けた。)

「だれも、聡太達だけを特別だとは思ってない。お前の痛みも、誰も否定なんてしてない。」

(梨央と琴音も前に出て勇気を振り絞って、梨央と琴音が楓の前に歩み出る。)

「楓がどれほど頑張ってきたか、私は知ってる...。」

(梨央が続けて)

「でも、誰かを好きなつもりじゃなく、みんな対等になれたらよかったね...」

(3人の視線がクラスメイトの声、ざわつき、そして楓へと向かう。)

(その時、聡太が静かに立ち上がった。)

「楓...俺はお前の気持ちに応えられない。ごめん...。」

(教室が再び静まり返る。)

「でも、俺は誰かを選ぶことで、他の人を傷つけたくない。だから...」

「俺の答えは、まだじゃない。でも、これからも、俺は真剣に考える。」

その瞬間、教室の空気は一変した。
楓は荒々しく嗚咽しながら席へ戻り、涙をこらえるように膝を抱えた。
神谷はその横へ静かに寄り添い、無言のまま肩を差し出す。
梨央と琴音は互いにそっと手を取り合って教室の後ろで並び、驚きと戸惑いの入り混じった表情だ。

(放課後の屋上。空は秋の色をしている)

梨央・琴音・聡太、神谷、そして楓。
5人は屋上に集まっていた。言葉少なに、それぞれが沈黙を選んでいた。

聡太が口を開く。

「もう、全部ちゃんと話さなきゃいけないと思ったんだ」

(楓が俯きながら、ゆっくりと顔を上げる。)

「また、断られるのかな。前みたいに」

「楓。お前が俺のことを本気で想ってくれたこと、その努力や覚悟、俺、ちゃんと知った。分かってる。」

「ありがとうって言いたい。でも、気持ちには応えられない。ごめん...」

(楓は震える息を吐いて、目を閉じる。)

「そっか...なんか、やっと終わった感じ...」

 神谷が少しだけ楓の隣に立つ。

「終わるってことは、始まるってことでもある」

(楓は驚いたように神谷を見る。けれど彼の表情は真剣だった。)

「梨央...」

静かに隣に立つ彼女に、琴音がぽつりと話しかける。

「ずっと思ってた。私、梨央に負けたくなかった。強くなきゃって...」

「私もだよ。琴音がいたから、前に進めた。ありがとう...」

 2人は、ほぼ同時に小さく笑い合った。

「俺、今日で全部リセットする。誰かを選ぶんじゃなくて、ちゃんと自分を選べるようになりたい。」

「だから...今は「誰とも付き合わない」って決めた。弱いかもしれないけど、それが俺の答えだ。」

少しの静寂のあと、風がふわりと吹いた。

「それでいいと思う」

「むしろ、らしいよ。らしくてムカつくけど...」

「バカだね。でも、ちょっとだけカッコいいよ...」

(あれから何ヶ月か立った。卒業式の日)

(卒業式を終えた、放課後の中庭。桜の花びらが舞っている)

(教室から少し離れた中庭で、琴音と聡太が並んでベンチに座っている。)

「なんか、あっという間だったな。色々あって...」

「うん...ホント、色々」

(少し沈黙が流れる)

「ねえ、あの時の「誰とも付き合わない」って選択、後悔してない?」

「してない。あれは、ちゃんと自分の気持ちを整理するためだったし。逃げじゃなくて、自分で決めたことだから...。」

「そっか」

(琴音がふっと笑って、立ち上がる)

「じゃあ、今は? もう、自分の気持ち...決まってたりする?」

(聡太は一瞬、驚いたような顔をしてから立ち上がる。)

「うん。もうちゃんと、決まってるよ...」

(琴音は聡太の顔を見る。)

「俺が好きなのはやっぱり琴音だ。」

(琴音の目が見開かれる。だけど、すぐにふわっと笑みが浮かぶ)

「やっと言ってくれた。こっちは、ずっと待ってたんだけど...。」

「ごめん。でも、やっとちゃんと好きになれた気がする。自分の中の整理も、迷いも全部乗り越えて...。」

「じゃあ、付き合ってくださいって言えばいいの?」

「いや、それは俺のセリフでしょ。」

やっと俺は思えた。あの日、まだ片思いだった。