瀬川は考えていた。
 七海に危険が及ばない場所をたくさん作らなくてはと。
 二人で結果を見た時、嬉しさよりも焦りが大きかった。
 今日、施設から出る時園長へ頭を下げていたのは、感謝の意だけではなく、彼女を守ってほしいとも伝えていた。聞いてみれば、常時警備員も巡回しているそうだし、今のうちはセキュリティ面で一番だろう。
 次にGerbera。一人暮らしと同時に夜間勤務を始めたとしても、兼村と九条がいる。スタッフの比率も男が多い。
 そして日吉。なんだかいつの間にか仲良くなっていた。
 とりあえず上記三つの場所があれば、何があっても相談口やボディガードになる。
 こう考えたのは、仮に母親が生きていて、七海が一人暮らしをしていると知った時、男を連れて訪れないかが不安だったからだ。自分は殴られようが蹴られようが、もし性的暴行まで受けたとしても構わない。もう、自分の体は暴力に慣れっこだし、男だ。
 けれど、七海は違う。
 もし、望まない結果になってしまったら、と考えると怖かった。冷たいようだがバイトでちょっと会う人、くらいなら人並みの心配で済む。けれど、思った通り肉親だったからこそ生まれた悩みだった。
 頭を整理するため、紙に上記三つの場所を書き、その他候補を入れる。箇条書きで、起こり得る状況や対応、その他詳細を想像して書き込んでいく。
 真ん中まで来てから、勢いよく真っすぐ一本の線を引いた。紙の端から端までしっかりと。上下で隔たれているように見える。
 左上に“七海のこと”と書き、右下に小さく誰かの名前を書いてから、マジックペンで下部を黒く塗りつぶす。
 ぐしゃぐしゃ、ぐしゃぐしゃ。
 白いところ一つ余すことなく、本当の真っ黒になるまでその行為を続けた。
 二人で遊んだあの日、七海へは嘘をついた。上手く引っかかってくれたようで助かった。
 双子でもそうじゃなくても一緒、なんてあり得ない。いつか道は違える。
 既に、もう違う道を進んでいるではないか。輝く水面を泳ぐ彼女と、深海で藻掻いている自分。
 この先、また深くまで沈められるような困難があったとしたら、相手は絶対自分でなくてはいけない。

 あの日、彼女へ本当に伝えたかった言葉は──。

(七海。ぜったい、こっちにきちゃいけないよ)

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