とある少年は小学生になっていた。
 友達の作り方を知らない彼はいつも孤独で、休み時間は図書室へ籠もるのが日課だった。読めない漢字や意味の知らない言葉があっても、とにかくそれらを目に入れる。そうすると自然とこころが落ち着く。
 ゲームなど遊べるものを持っていないし、家では教科書を繰り返し読んでいた。
 そのうちに、べんきょうっていうのは楽しいのかも、と思い始める。
 彼は長期休暇が嫌いだった。一人でいるのは慣れたけれど、食糧源である給食がないからだ。
 何週かにいっぺん母親が男を連れて帰ってくるが、会話もなく暴力と僅かな金だけ置いて去っていく。この雀の涙を出来るだけ貯めて、少年はスナック菓子を買う。それを何回かに分けて食べ、水道水を飲み、本に集中することで空腹を凌いだ。
 この地獄のような日々が終わると、皆は毎度“りょこう”の話で盛り上がっている。会話に混ざる勇気はなく、聞こえてくる話から想像を膨らませていた。
 いつしか彼は、このまま自分の“じんせい”というものが終わるのだと思い込んでいたが、転機が訪れる。
 それは、たまにやる“てすと“で“ひゃくてん”を取ったことをきっかけだった。偶々、一人だけ満点だったらしく、教師から「おめでとう。すごいね」と言葉をかけてもらった。
 少年の脳に電撃が走る。その瞬間、一枚の紙切れがきらきら輝いたように見えた。
 勉強をすると、100点が取れる。100点が取れると、誰かが褒めてくれる。
 それに気付いてからの少年は頭へ色々な知識を詰め込んだ。学力はぐんと伸びて、高学年にもなると、どんな教科も満点を取った。統一テストでもそれは同様だった。
 あまりの出来にニンゲンからは敬遠され始め、とうとう卒業まで友達の一人も出来なかった。けれど、彼にとってそれはさして問題ではない。
 代わりに生きるための喜びを手に入れたから。これがあればきっと──この世界に居場所が出来るかもしれない。
 少年は1と100、その数字と共に未来に希望を持って羽ばたいていった。
 そうして青年となった彼は今、深海にて一人、溺れている。

―――――――――――― 
!もっとはなまるほしい!
――――――――――――