「DNA鑑定?」
「そう。やってみない?」
この日、偶然シフトのお休みが重なっていたあたしと凪は、街へ遊びに来ていた。
バイトの休憩中とかLiteで話している時に、お互い洋服やアクセサリーに興味があるのを知ったからだ。試しに「遊び行こ!」と誘ってみたら意外にもOKされた。
それからのあたしは、この日が来るのをとーっても楽しみにしていた!
今日のコーデは、ビッグシャツにスカパン。もう足を出しても寒くない季節だし、やっと出番が来てよかったと思う。
二つの三つ編みはゆるくほぐして、結び目を隠すようにくまのヘアフックを付けてある。
駅前の広場で待っていると、凪が来る気配がした。説明が難しいんだけど……ピンとくるの。
その方向を見てみると、やっぱりそこにいたのは凪だった。
とろみのあるスラックスに可愛い柄のシャツ。近くで見ると髪の毛が紫色に変わっているし、パーマも違う型だったから、まじまじと見てしまった。
「変?」と聞いてくる凪に、あたしは「かっこいい!」と素直に答える。顔には出なかったけど、ちょっと照れていたみたい。
その後は、309でウインドウショピングをしたり、ゲーセンでプリクラを撮ったりした。あたしが思いっきりデコったそれを、お互いスマホケースの内側に挟んだ。
凪はしばらくそれを眺めて言った。
「なんか……目、でかくね?」
「今はどれだけ盛れるかが勝負なの!いいな〜凪かわいいしスタイルいい〜!」
「それって加工……?のおかげなんじゃねえの?別に顔だって一緒じゃん」
「それって褒めてる!?よね!」
「っせーな……」
凪はゲーセンに来たことがないみたいで、興味津々にしていた。そんな凪を見て、何かをあげたくなった。
実はあたし、クレーンゲームが得意なのだ!だから、ぬいぐるみを取ってプレゼントしたの。小さい物だったけど、少し嬉しそうにしていてやっぱり可愛いなーと思った。
それからいっぱい歩いて疲れたし、お腹も減ったからファミレスに入った。そしてさっきの会話に繋がるわけ。
凪が考える素振りをしているうちに、あたしはこっそりタッチパネルでチョコレートパフェを二つ頼んだ。
運んできてくれたロボットに手を振っているのを見て、凪は目を丸くしていた。
届いたチョコレートパフェを同じタイミングでつついて食べ始める。ぱっと目が合ってあたしは笑った。
「ちっ、勝手に頼むなよ」
「食べたかったでしょ?」
「……まあ」
「んもうっ。ちゃんと昨日調べて、コーンフレーク入ってるお店選んだんだよー?もっと美味しそうに食べてくださあい」
「そりゃどうも。ふうん……バナナなかったら選ばなかったのか」
「うっ」
あたしはパフェを頼んだとき、九条先輩曰くの、“交信”をしなかった。でも、凪がパフェを食べたがっているのが何となく分かった。
凪とあたしは、出会ってから今日まで色んな時間を過ごすうちに、もしかして自分たちは一卵性の双子かも?なんて考え始めていた。
面接でのことだったり、今のパフェのことだったりこういうことがたくさんある。ありすぎるの。きっとそうなんだと思う。だからこそ、ハッキリしておきたかった。
鑑定なんて必要ないって凪もあたしも分かってる。それでもちゃんとした証が欲しかった。
違うよ、って結果が出ればそっくりさんでーす!とかネタに出来たりするけど、そうじゃなかったら……あたしたちには真実を知る権利が出来る。
凪は、頬杖を付いて窓の外を見ながら諦めたように言った。
「分かったよ。確か……キット取り寄せて、粘膜やら髪の毛やら送るんだっけ」
「へー!そうなんだ!」
知らなかったからすごい!と言うと凪からはますます大きなため息が出る。
「あのさあ、知らないで提案してきたわけ?」
「うんっ。病院とか行くのかなあと思ってたー。ま、凪に聞けばなんとかなるかなって!」
「ったく、七海は昔っからそういうとこ……」
昔から、という言葉にとってもびっくりした。ついこの間、初めて出会ったのに。
あたしだけじゃなく言った本人もびっくりした顔をしている。
凪は少し慌てて否定する。
「いや、そんなことあり得ない。おれは七海を今まで知らなかった。施設の近くに行ったこともない。もしどこかですれ違ってたら覚えてるはず。記憶力には自信ある」
「そ……そうだよね!あはは、なんでだろ……」
「否定の方法だってちゃんとある。どっちかが上手いこと誘導してたか、内通者がいて事前に情報を手に入れてたか。例えば、おれが七海の質問に答える。それに対して必ず七海は正解と言う。次にその反対をやって肯定する。ここまで顔が似てるんだ。それを続けていけば何も知らない奴らからすれば“そう”見える」
「……」
「名前の響きだってそう。お互い隠してるだけで本当はななみかもしれないし、なぎさかもしれない」
「……」
あたしは凪と目を合わせられなくなっていた。
凪もそうだった。上か下を見て、次々否定の方法を思い付いてはあたしに話す。
凪にそんな否定されたくないな。もしあたしと双子だったら嫌なのかな。と思っていたとき、でも、と凪が呟いた。
「……おれは七海を否定したくないし、されたくもない」
「……!」
「やろう、鑑定」
「……うん!あのね、凪、あたしね」
「ん?」
あたしはまだ手を付けてないそれを、凪のそれにくっつけた。
「このさ、さくらんぼみたいにさ、双子だったらいいなって思うよ」
「……おれも」
さくらんぼを最後まで取っておくクセも、一緒だった。
その後は、どこへ行くのにでも手を繋いで歩いた。珍しい目で見られることもあったけど、そんなの気にならなかった。なんだか懐かしい感じがして、楽しくて、嬉しくて、心がぽかぽかしたの。
とうとう帰る時間になってしまったけど、どうしてかあたしは駄々をこねてしまった。鼻の奥がツンとして、涙まで出てきてしまう。
それを見た凪は相変わらず無表情だった。少ししてから、誰もいない路地裏にあたしを引っ張って行った。
あたしを隠すように、人混みに背を向けて凪は立っている。紫色の髪が後ろの光に透けて、綺麗だなと思った。
凪は、いつもとは違うやさしい声で言った。
「……今日、絶対七海に言おうと思ってたことがある。タイミング逃してなかなか言えなかった」
「うん……」
「……多分七海も“あの時”聞いたと思う」
「うん……っ」
次に来る言葉が分かってしまって、ますます涙が溢れてきて止まらない。
凪はあたしの指と自分の指とを絡め合う。おでこをこつんとくっつけてから、小さく囁いた。
「ずっといっしょだよ。双子じゃなくたって」
「うっ、うぅ……!」
「んだよ、そんなに泣くなって」
「凪の代わりに、泣いてるの……っ!」
「……そりゃどーも」
「うう……なんだろ……すごくあんしんする……」
「……そうだね」
二人でしばらくそうやって過ごした。
今までで一番、いっちばん、しあわせな時間だったと思う。
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