夕方16時、Gerberaはダイニング営業準備中だった。
スタッフたちはそれぞれの業務をテキパキとこなしている。体調不良だった瀬川も無事復活していて、現在は客席の消毒、メニューや各種調味料の補充などを行っていた。
 洒落たジャズをBGMに鼻歌を歌いながらワイングラスを磨くのは九条である。この曲が大層お気に入りらしく、営業準備中は大抵この曲が流れている。スタッフの半数以上が、アルバイトの時間以外でも頭の中でリフレインするくらいの頻度だ。
 ぱっぱと作業を終えた瀬川は、諸々の事務処理をしてくると一言告げて事務所へ入っていった。
 九条がご機嫌になる要因の一つがもう一つある。
明るく生き生きとして、様々な人の憩いの場となっているカフェから、ムード溢れる賑やかなダイニングへと変わる工程だ。
仕事の疲れを自分の作った酒で癒すことが出来る。美味しかったという言葉を聞くのが彼の幸せであり、バーテンダーを続ける糧となっていた。
 不意に裏口のインターホンが鳴る。
一瞬、発注関係かと思ったが「そうだった!」と手のひらへぽん、と丸めた拳をくっつけた。
 今日はアルバイトの募集へ応募してきた人との面接日であった。かかってきた電話に出たのは彼で、その時聞いた声はとても元気だった。受け答えもハキハキとしていて、既に好印象を感じている。
 普段なら店長が面接担当をするのだが、たまたまこの日この時間、兼村は用事があり、事前に副店長である九条に頼んでいたのだった。
いい人だといいな~と呟きながら、インターホンの画面すら見ず彼はルンルンと扉を開けた。

「こんばんは~!副店長の九条と言います!今日は面接……」

 立っていたのは女子高生だった。
栗色の髪の毛は高く括られていて、セーラー服を身に付けている。
 だが、彼はぽかんと口を開けたまま硬直している。女子高生も何があったのか分からずに首を傾げている。
もう一度言う。彼の目の前にいたのは確かに、間違いなく、“女子”高生だった。
 九条は店中に響く声量で叫んだ。絶叫にも近いそれに、他のスタッフは顔を見合わせた。事務所まで届いてきた大声に瀬川も扉を蹴り飛ばす勢いで出てくる。
負けじと大声で「淳、てめえうるせえんだよ!」と言いながら裏口に来た瀬川だったが、瞬間、非常に驚いた顔をした。
九条は瀬川と女子高生二人を見比べてから、ムンクの叫びよろしく両手を頬に当て、再び叫んだ。

「凪が二人ぃー!?」
 
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🤔 😱 😮‍💨
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