「麗蘭さまのお調べをして参りました。」

 「麗蘭にお会いしたのですか? 元気でしたか? そして、御子は?」

 医官が食堂にやってきて、鈴の饗(すずのきょう)にことの次第をお伝えしました。鈴の饗は麗蘭さまのお父さまです。今は食堂に仕えて宮中で暮らす人々の食事を作る立場にありました。

 「そっかぁ。御子はまだ先かぁ。」

 「腹に微かに膨らみを感じたのですが、決め手が無いもので。ただ、皇子さまからのご寵愛(ちょうあい)は明らかですから、授かる日も近いかと。」

 「そうかぁ。」

 鈴の饗は医官に刺身のお膳を出して、もう一度厨房に戻りました。

 「これ、少しですが、良かったら。」

 持ってきたのは丸く、高さのある脚がついた青い皿でした。表面には透明に近い白色の刺身が貼り付いています。

 「こ、これは。てっさにござるか?」

 「そうなんですよ。ちょっと練習でやらせてもらって。次の冬から帝にもお出しできるように特訓中なんです。」

 医官は半分閉じていた目を見開き、よーくその手仕事を見て、てっさを口に運びました。

 「おー、素晴らしい出来ですな。帝も皇子さまも、てっさが好物ですからなぁ。」

 「おー、そうなんですか! いいこと聞いちゃった。今度皇子さまにもご挨拶にご馳走いたしたいですな!」