龍が言うことには……

 立ち上がった愛香は翠子のもとに行き「お前ごときが!」鬼の形相で髪を掴もうと手を伸ばした。

 しかし手が翠子に届く前に体が浮き、そのまま壁に叩きつけられどこからか飛んできた綱に縛られた。 

「ぎゃー」

 狂ったように叫ぶ愛香の前に烏天狗が立ちはだかる。

「お前も懲りないやつだな」

「バ、バケモノ! 来ないで!」

 襖が開き、執事や警察、そして使用人たちがその様子を呆れて見ていた。

「バケモノはお前だ」と、しずくが言った。



 愛香が用意した毒は実際にひと口で死に至るという恐ろしい毒だった。

 実行犯の女中が彼女に脅されたと証言した。女中の兄は賭博で多額の借金を抱えており、愛香に助ける代わりに密偵になれと命ぜられたらしい。

 翠子の妊娠を知らせると愛香は狂ったように暴れたという。呪文のように『そうはさせない』と言い続け女中に薬を渡した。

 女中には、つわりが酷くなるだけの薬だと謀ったそうだ。

 十八になった愛香は大人として逮捕された。殺人未遂事件として処罰は免れない。

 父親が服役中だというのに、どうして懲りなかったのか。
 叔母の方は夫が逮捕されすべてを失ったショックで精神を病んでしまい、部屋に閉じこもっていると聞く。翠子には鬼のように強く見えたが、その実は案外弱い人間だったのかもしれない。

 しかし愛香は違った。親の悪事に巻き込まれた気の毒な娘として子爵家の老夫婦が連れ歩き、相変わらず社交場に顔を出している。

 確かに父親が犯罪者となれば世間の風当りは強いだろうが、裕福な子爵家にいる限り、平穏無事に暮らせたはずだ。このような問題さえ起こさなければ……。