龍が言うことには……

 あの日から、翠子は伯爵令嬢ではなく柊木伯爵家の居候、あるいは邪魔者になった。

 七年経った今は、両親に愛された記憶だけが温かい炎として灯っている。

 ほかにはなにもなかった。なーんにも……。

 ゼエゼエと息をするのも辛くなった頃、渓流の音が聞こえてきた。

「クゥー」

 ひょっこりと顔を出したのは河童だ。

「こんばんは」

 一匹二匹と川から出てくる。

 この山には野獣だけでなく、あやかしも棲んでいる。

 本来あやかしは野獣よりも恐れられる存在で、人を襲う恐ろしいものもいるが、今のところ翠子が出会うあやかしはどれも怖くなかった。こちらがなにもしない限り襲ってきたりしないし、叔父や叔母のように理不尽に怒鳴りつけたりしない。

「ごめんね。今日は、お野菜はないの」

 夏場ならキュウリを持ってくることができたけれど、寒い冬は使用人が食べる物さえ確保が難しくなる。

 翠子も今日口にしたのはサツマイモひと欠けだけだ。

「よかったらこれを食べる?」

 差し出したのは懐に隠しておいた干しイモだ。