龍が言うことには……

 他人行儀な話し方がおかしくて、ふたりでくすくすと笑い合った。

 しずくが着ているのは使用人に支給された臙脂色の着物で、白くてかわいらしい前掛けがついている。

「若奥様のおかげでお給金をたくさん仕送りできるようになりました。ありがとうございます」

「喜んでもらえてよかった」

 今まで翠子や客の前に出ない末端の女中はお給金も少なく、継ぎ接ぎだらけの着物を着るしかなかった。それが悲しかったので、無償で提供すると決めたのだ。

 使用人はしずくなど、叔父一家に加担しなかったほんの数人を残して入れ替わった。叔父が解雇してしまった昔からの使用人も戻ってきていて皆が仲良く穏やかな日々が続いている。

 廊下を進むとちょうど玄関が開いたところだった。

「お帰りなさいませ」

「ただいま」

 にっこりと竜胆が微笑む。

 彼と見つめ合うことに慣れない翠子はほんのりと頬を赤らめる。

 まさかリンが月夜野家の小公爵だったとは。しかも自分が小公爵の妻になるとは。いまだに信じられない思いだった。

「今日はなにもなかったか?」

「はい。問題はありません」

 竜胆はなにが心配なのか、翠子の無事をいつも気にかけている。困っていないか、体調はどうか。ほんの少しでもため息をつこうものなら何事かと大騒ぎをする始末である。

 朝な夕なに隙あらば頬に唇に口づけをする。困った顔をすれば、彼は好きなんだから仕方がないと言う。
『俺は翠子に溺れてしまったんだ』
 
 ただひたすら溺愛されることに慣れていない翠子は戸惑うばかりだ。もちろんうれしいというのが大前提だけれど。