寒い冬は過ぎ、春は目の前だ。
大きな掃き出し窓の先に広がる庭園では梅の花が綻び始めた。
ここは柊木伯爵邸だが、表札には月夜野とも書いてある。翠子の悲願は叶い、両親が愛した邸を叔父から取り戻すことができた。
使用人の数々の証言もあり、叔父は翠子に対する殺人未遂で逮捕された。夫人と愛香は逮捕は免れて、夫人の実家である子爵家に身を寄せているらしい。
これまでの翠子に対する虐待の数々を知った竜胆の怒りは凄まじかった。
叔父一家が買ったものはすべて、愛香や夫人の着物や宝石類も取り上げ、燃やせるものはすべて庭で燃やしてしまったほどだ。
翠子の父の代から使っていた家具はすべてが上質なので叔父一家もそのまま使っていたのが幸いした。今の邸は、翠子の記憶にある懐かしい柊木邸に戻っている。
「若奥様、旦那様がお帰りです」
「はい」
結婚して三カ月。若奥様と呼ばれるのにはなかなか慣れない。翠子は恥ずかしそうに微笑んだ。
「洋装もよくお似合いですね、若奥様」
「ありがとう。しずくもよく似合ってるわ」



