柊木は警察に連れていかれて、夫人と愛香は号泣し、伯爵邸は騒然となった。
ひとまず横領で逮捕されたが、山に翠子を追い出したり、ついさっき犬を使って翠子を襲わせようとした件も殺人未遂として罪を償わせると固く誓う。
「さあ、行こう」
「はい……」
彼女はまだピンとこないらしく戸惑いを隠せない。
翠子が知るのは銀髪で赤い瞳の風変わりな男、リンだ。
黒髪で濃茶の瞳をして軍服に身を包む月夜野家の小公爵、月夜野竜胆ではない。
いくら顔立ちが同じでも気づかなくて当然だろう。
「遅くなってすまなかった。翠子、よく頑張ったな」
そっと囁くと、彼女はハッとしたように目を見開いた。
「リン……?」
「もう大丈夫だ」
竜胆は冷え切った翠子の手を包み込んだ。
二度とこの手を離さないと心に誓いながら。



