龍が言うことには……

「愛香、やめんか」

「だってお父さま」

 柊木は愛香を黙らせて、竜胆を振り向く。

「小公爵、やはり翠子はおかしい――」
「いい加減にしろ」

 年上に対する敬意もこの男には必要ない。怒気を含んで竜胆が言い捨てると、柊木はギョッとしたように身をすくめる。
 伊達に特殊防衛隊の司令官を務めているわけではない。あやかしをも震えあがる睨みだ。全身に怒りをたぎらせてねめつける。

 ふと翠子を振り返ると彼女の手を取った。

「よく見るといい。なぜ、翠子さんの手はこれほど荒れているんですか。なぜ彼女は、鍵がかけられ格子がはめられたみすぼらしい離れに押し込められていたんですか」

「そ、それは」

「茶番はこれまでだ」
 竜胆は声色も口調も変えた。

「振袖で山に入る間抜けな娘をしっかりと教育するんだな。嘘が丸出しだぞ。それから犬」

 野犬を装い翠子を襲わせようとしたと、彼女の前では言えないが、柊木には言わんとすることがわかったのだろう。

 柊木がハッとしたように震えだす。

「今日のことは決して忘れないぞ。よくよく考えるといい」

 鋭く柊木伯爵一同を睨んだ竜胆は、翠子を振り返り打って変わって優しく微笑んだ。